銀兎文庫::novels1
数日前から、覚醒の気配があった。
時々、睫が小さく震えたり、指先がぴくりと動いたり。
呼吸がはっきりしてきて、唇が薄く開いたり。
昼が一番長くなる夏至、天使が目覚める。
1年の半分を眠ることになったカヲルの側にいるために、シンジはある意味ごく普通の少年としての生活を捨てた。確かにシンジは現実を望んだけれど、シンジにとっての現実とは、他の人達のように、何ごともなかったように生きていくこととは違ったからだ。
普通、なんらかの病気かなにかででもなければ半年も眠り続ける人間などいない。例えそういう理由で眠っているのだとしても、生きている人間である以上は点滴などで栄養を補給しなければ死んでしまうだけだ。けれど、カヲルは病気だから眠っているのでもないし、眼が醒めてもまた半年後には眠ってしまう。おまけに、永久機関を持つ彼は、眠っている間の栄養を補給をする必要もない。世界を支えるためにそうなったのだとしても、補完という事実さえ記憶にのぼらない人の間にいれば、カヲルの状態は必ず不審を抱かれてしまうだろう。もしカヲルが使徒だとばれたら? 人は、自分達と違うものに本能的に恐怖を覚え、時に相手を滅ぼそうとする。そういったことからカヲルを守れるのなら、学校や友達や、そういったものと引き換えにしても構わなかった。
彼等は彼等で、そうとは知らず取り戻した現実の中で生きていく。
自分達は自分達で、信じるもののために生きていく。
あまりに強くカヲルと共にいたいと願ったせいだろうか。
どうやら、体の方がそれにあわせて少し変化したらしい。外見はどこも変わっては見えなかったけれど、明らかに ―― 成長が遅くなっている。人から離れて暮らす選択をした理由の半分はそこにあった。
人でしかない僕はカヲルにかわって世界を支えることはできないし、多分これからもできないのだろう。
人として生まれながら、役に立たないままでこの先人ではないものに変わって行くとしても、いつか自分の無力さにどれほど歯噛みすることになったとしても、それでも。
カヲル達を引き止めると云う、自分の思い通りにできたのだから、彼等を望んだことに、後悔などしない。
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ginto-bunko