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 世界は半分卵に戻っていたから、永久機関を持った使徒の存在と云うエネルギーは、完全な卵になるため、または半分卵の世界を再び元に戻すために使われるはずだった。けれど、僕が「カヲル君と綾波がいる現実」を選んだことで、本来選択できないはずの望みを叶えるために、元に戻すためのエネルギーの何分の一かが削られることになる。
 天使が元に戻した現実世界は、足りないエネルギーの分、同時に綻びを伴った。世界が安定して存続し続けるためのエネルギーが不足していた。何らかの方法で足りないエネルギーを補わなければ、元に戻した世界は崩れてしまう。
 カヲル君と綾波、二人がいる現実。その両方を選ぶことで壊れてしまうなら壊れてしまえと思った現実でも、一度元に戻ってしまえば、そこには何億という人が生きている。僕は神様じゃない。僕の選択の権利は、あの時に使ってしまったのだから、一人の人間の一存で一人一人の「現実」を壊してしまっていいはずはない。

 大きな代償を払うことになったのは、我がままを通した僕ではなく、僕の我がままを受け入れた彼の方だった。現実世界では所詮ヒトに過ぎない僕には、世界を存続させるための力などない。僕自身は何もできないのだ。

 夏至から冬至までは、現実世界に。
 冬至から夏至までは、世界を支える。

 世界には人が戻り、セカンドインパクトで失われた四季が戻った。
 補完の夢は人々の記憶の底にしまわれ、最初から何ごともなかったように人の営みを続けていった。
 けれど、本当は何もかもが元通りになったわけじゃない。
 死んだ人は生き返らなかったし、二人の使徒が人になったわけでもない。
 そして、僕の払ったささやかな代償は、世界が続く限り、冬至から次の夏至までの間、一人で眠り続ける彼を一人で待ち続けるということだった。




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