銀兎文庫::novels1
ねぇ、笛吹き男の話を知ってる?
折角ネズミを退治したのに、
皆から信じてもらえなかったんだよ。
僕なら、
…僕なら絶対信じるのに。
■■■
田舎の夜は早く、日没から半時間もすれば、山に囲まれた谷合いにぽつりぽつりと点在する民家など、単なる墨絵の濃淡のように、簡単に周囲に溶け込んでしまう。各々の窓の障子越しに灯りが見えなければ、何処までが暗闇でどこからが家なのかも判らないに違いない。
その墨絵のような夜の中で、彼は窓を大きく開いてぼんやりと月を眺めていた。夏が盛りに向かう7月の下旬。昼は五月蝿いほどの蝉時雨と強い陽射しに暑さを浮き彫りにされてしまうが、ともすれば宵の口には優しげな夜風が起きる。彼には1日で一番ほっと出来る時間だった。
「 ── 今日の月は赤いなぁ…」
そうつぶやくと、シンジは窓枠に置いた自分の腕の上に、細い顎を載せた。男の子としては華奢といえる体つきに、短く切られた柔らかそうな髪、そして黒眼がちな眼。彼の部屋の奥にかかる制服は中学生のものだったが、恐らく年齢よりも幾分幼く見えてしまうだろう。
彼の生家である碇家はこの地方で古くから続く旧家で、三百年以上の長い間、地元の政治や産業などに深く関わってきた。
代々の当主は土地の人達から「主様」と呼ばれていて、それはなんでも、農地解放以前は、近隣の土地のほとんどが碇家のものだった名残らしい。つまり昔風にいうなら地方領主のようなものだったわけだ。この山合いの土地の政治と産業と生活基盤を握っていたため、地元ではほとんど神様のように崇められ、また畏れられていたということだった。(何せ、逆らえば村八分どころで済めば良い方で、土地からの追放や、下手すれば口封じなども当たり前だったというのだから。)
その証拠に、大戦が終わり、日本が荒れてしまっても、まだこうして権勢が衰えない。
碇家の本宅自体はもう20年ほど前から市内に移っていて、今ではここは一種の別宅のような扱いでしかない。正月や彼岸や冠婚葬祭など、そういう特別な行事は今でもこの家で行われるものの、事業の基盤は完全に本宅に切り離されている。事実、シンジの父親であるゲンドウは本宅に行ったきりで、物心ついたころにはこの田舎の家で過ごしていたシンジとは、年に数えるほどしか顔を合わせることはなかった。
母を早くに亡くしているシンジ、その彼の倍も年の離れた姉のミサト、運転手兼雑用を引き受ける加持、執事の冬月、そして幾人かの使用人。やたらと大きい家の広さに比べれば淋しいものだが、シンジにとっては本宅よりもよっぽどこちらが自分の家といえた。
本家の長男であるシンジが、本宅ではなくこんな田舎に引き籠っているのを不思議に思う人もいるだろう。シンジは昔から体が弱く、都会の空気が胸に良くないということで、空気の綺麗な田舎で静養する必要があると主治医に判断されたのだった。
次期当主になるべき長男であるため、シンジはそれこそ真綿で包まれるような少年時代を過ごした。近頃ではかなり丈夫になってきたものの、気管支はまだ弱い。ちょっとしたことで風邪をひき、それをすぐにこじらせてしまうので、なかなか油断がならない。先日もふとした事で引いた風邪をこじらせて、あわや肺炎寸前までいったばかりだった。
シンジは空を見上げたまま、吹いてくる風に髪をなぶらせていた。
「なんか、ウサギの眼みたいだ…」
窓から見える満月は、都会で見るそれよりも大きく明るい。その月がいつもとは違って赤い光を放つ様は、一種異様な光景で、しかし、それゆえに何処か魔的な美しさを漂わせている。時間を忘れたように窓によりかかるシンジに、その時柔らかな声がかかった。
『いい宵だね、シンジ君』
その声に引かれるように振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。にっこりと柔らかく笑みを浮かべた彼に、シンジはぱっと顔を輝かせた。
「カヲル君、いつ来たの?」
カヲルと呼ばれた少年は、微笑みを浮かべたまま、体重を感じさせない足取りでシンジの方へと歩み寄った。そして軽く身を屈めると、シンジの顎をついと上げて、唇に啄むようなキスをする。
『ずっといたよ。でも、君が輝夜姫みたいに月に見蕩れてるから、声をかけなかったんだ』
カヲルの声音は表情の通りに微笑を含んでいた。
「…意地悪だなぁ、カヲル君…僕、女の子じゃないのにさ」
キスされて心持ち色づいたような唇で、シンジは小さく抗議する。そんな抗議すら楽しそうに、にっこりと笑うカヲルに、自分のそんな抵抗は無駄だと判っていたけれど。
カヲルはふわりとシンジの隣に座り込んだ。月の光に似た銀色がかった砂色の髪、抜けるように白い肌、石榴石のように赤い瞳…何よりも、絵に描いたように調ったその貌…カヲルはそんな現実離れした容姿をしていた。白すぎる肌が、まるで内側から光っているかのようにさえ見える。
僕よりもよっぽどカヲル君の方が輝夜姫みたいなのに、とシンジは心のなかでつぶやいた。まるで月のような容貌のカヲル。 昼の太陽のような押し付けがましさではなく、包み込むような輝き。いや、肌だけでなく、髪も、ぼんやりと光っている。
『僕が、意地悪?…駄目だよ、シンジ君。思ってもないことを云っても』
くすくすと笑いながら、からかうような口調でカヲルが云う。
「意地悪じゃないか」
目線が同じ高さになって、見合わせた顔が近い。
『僕と君は同じだから、全て僕には判ってしまうこと、忘れたわけじゃないだろう?』
カヲルの赤い眼で見つめられると、何もかもが彼の云う通りにしか思えない。
シンジは、降参するように肩をすくめると、カヲルに半身を預けた。それを受け止めながら、カヲルはまだ笑っている。
「今日は随分と上機嫌だね、カヲル君」
この銀色の少年が不機嫌だったことなど、自分は数えるほどしか知らないが、今日のカヲルはいつもに増して機嫌が良さそうだった。やんわりと肩に回された手に安心感を覚えながら、シンジはカヲルを見つめる。
『ふふ…今夜はひときわ月が赤いからね、僕の力も増幅されるんだ』
カヲルが窓の外を見上げると、シンジも同じように視線を投げた。大きな月は妖しいほど赤く光って、表面の陰影もくっきりと見える。この谷間の土地を今支配しているのはこの赤い月であるかのようだ。
「だったら今日はここに居られるの?」
月を見上げたまま問いかけるシンジに、同じく月を見上げたまま、カヲルは肩に回した手に軽く力を込めた。
『月が沈むまでは、傍にいるよ』
囁かれた言葉に、シンジの瞳が和む。
「よかった」
視線を敢えてまぜる事もなく顔を寄せ合いながら、奔放な光を受ける彼等はまるで彫刻のようで。
そのまま二人は月を眺めていた。
■■■
シンジがカヲルを初めて見たのは、まだ幼い、5才のころだ。家の裏手に広がる雑木林で遊んでいるうちに奥へと迷い込んでしまい、帰れなくなったことがあった。
入ってはいけないと云われていた雑木林は、幼いシンジにすれば「ダメ」な場所だけに行ってみたくて仕方のない場所でもあった。田舎の例に漏れず過疎が進み始めていたので、遊ぶのはいつも一人。年の近い子供も何人かいたのだが、彼等の親に「坊ちゃん」扱いされる上に、体が弱くてすぐに疲れる自分と遊んでくれる様な子はいない。
いつものように家の裏庭で遊んでいたものの、たまたまぽっかりと人の目がなくなったことに気がついたシンジが、悪戯っ気を起こしてもあまり責められないだろう。彼が裏の木戸から抜け出して雑木林に入り込むのを見た人間はいなかった。
雑木林は宝の山だった。ドングリや椎の実がざくざくと落ちており、見た事のないような蔓草に、鮮やかな実が成っている。初めての冒険ともいえる行いと初めてみる光景に、シンジはわくわくとして、すぐに新しい遊びにのめり込んだ。
どのくらい時間が経ったのか。
間近で立ったカラスの大きな鳴き声にびくっとすると、シンジは初めて自分が一人きりだと云う事が怖くなった。見上げた木立越しの空は、すでに紫色と云うより、暗い青になり始めていた。
秋の日没は驚くほど早く、独り遊びに夢中になっていたシンジが気がついたときには、すでに回りは濃い夕闇に浸食されていて、自分がどちらから来たのかも判らなくなっていた。いつもなら、べったりと張り付いた家人がシンジに帰るよう諭すのだが、今日は独りきり。だから時間の経過にちっとも気がつかないままだったのだ。
しかもそれだけでなく、シンジは自分が思った以上に深く、雑木林に入り込んでいた。暗闇への怯えに、ふらふらとシンジが足を踏み出したのは、さらに林の奥へと向かう方向で。歩いても歩いても見えてこない家の灯りに、幼い彼はとうとう泣き出してしまう。
「…っく、うぇ…ん、おねぇちゃん…、かじぃ…、こわいよぉ…」
ぼろぼろと大粒の涙を流しながら、シンジはすっかり真っ暗になった林をとぼとぼと歩いていた。雑木林とはいえ、そのまま山林に繋がるために、間違えば山の中へと踏み込みかねないのだが、そんなことが5才のシンジには判るはずもない。それよりもただ、怖くて怖くて、じっとしてなどいられなかった。
時折あらぬ方から何かの音がすると、飛び上がらんばかりに驚き、慌てて走ってそこから離れる。そんなことを繰り返すうちに、すっかり疲れてしまった。
酷くお腹が空いていたが、何も食べるものはなく、歩き疲れたシンジはとうとうそこに蹲った。
「こわいよぉ…、さむいよぉ…、 ── ぅう…、ひっく…」
秋とはいえ、気温が下がれば大人でも疲労凍死しかねない。子供の体力、まして体が弱いシンジでは、一晩を外で過ごすのは命取りだ。暗闇と空腹と寒さと疲労で、シンジは泣く元気もすぐになくしてしまった。捨てられた小猫のようにきゅうっと丸く縮こまり、せめても寒さを和らげようとするものの、どんどん下がる気温に、それもほとんど役に立たない。
「…たすけ、て ── 」
寒さに震えながらシンジは眼を閉じかけた。ところが。
『君かい?泣いていたのは…』
突然聞こえた人の声に、シンジは疲れも忘れて半身を起こした。探しに来てくれたんだと思った。家の人が僕を探してくれていたと。やっとお家に帰れるんだ ──
しかし、見上げた視界に映ったのは、見たこともない人だった。ミサトより少し下くらい、でも自分からすれば充分「大きいおにいちゃん」が、シンジを覗き込んでいる。
『道に迷ったんだね?』
話しかけられて、シンジはほとんど無意識で頷いた。驚きで大きな黒い眼がぱっちりと開いている。
「おにいちゃん、だれ…?」
木立の合間から漏れる月の光に照らされたその人は、銀色をしていてとても綺麗だった。そしてその眼は一度見たお母さんの指輪の石のように真っ赤で。人恋しさとその記憶が、人見知りの激しいシンジに、見知らぬ人への警戒を忘れさせていた。
『僕はカヲル』
「…カヲルくん?」
『君はなんて云うの?』
「シンジ」
ふ、と、カヲルの赤い眼がわずかに見開かれる。
『シンジ ── 碇、シンジ君?』
問い返すカヲルに、シンジはこくりと頷く。
『お屋敷の子だね?』
「うん。おにいちゃん、ぼくをしってるの?」
シンジの大きな瞳に見つめられていることに気が付いたカヲルの眼が、ゆっくりと細められた。それが笑みの形に変る。
『…知ってるよ。とてもよく、ね。』
その声に含みがあることを理解するには、シンジは幼すぎた。ただカヲルが自分を知っていたということに安堵する。僕を知っている人なら怖くない。最後に残っていた躊躇さえ、緩く解けて行く。
シンジに、カヲルは手を差し伸べた。
『おいで、シンジ君』
いつもなら、初めて逢う人に声を掛けられても戸惑うばかりのシンジが、おずおずと手を伸ばした。小さな手が、少しひやりとする手に重なる。手を握られ、にっこりと笑われて、シンジも笑い返した。カヲルはシンジを立たせると、ひょいと抱き上げる。
『もう大丈夫…』
そういわれて初めて、シンジは自分がとても淋しくて悲しかったことを思い出した。
けれど、眼の前にある赤い瞳とその笑顔に、そんなことはすぐに記憶から消えてしまった。
そのままカヲルが歩き出して ── 胸に抱き上げられゆらゆらと運ばれているうちに、いつしかシンジはうとうとと眠ってしまっていた。何かの花のようなカヲルの香りと、ゆりかごのような心地よさに包まれて。
『起きたのかい、シンジ君。もしかして、お腹空いたのかな?』
知らない部屋で眼が醒めると、眼の前でカヲルが笑っていた。ずっと抱いていてくれたのだ。たった数時間で馴染んでしまったカヲルの気配。まるでずっと昔から知っているような柔らかな声。
でも、笑い返したいのに、とても出来そうになかった。体が熱くて重い。頭が酷くぼんやりとしていた。声もでない。
意識はそこで途切れた。
『 ── シンジ君?』
訝しげに問いかけてきたカヲルに、くったりと小さな体を預けたまま、シンジはままならない呼吸を浅く繰り返している。その様子に気が付いたカヲルが手のひらを額に当てると、そこは驚くほど熱をもっていた。生来病弱で幼いシンジが、短い間とはいえ凍えていたのだから、無事でいられるわけなどなかったのだ。
『…酷いな、何とかしないと』
カヲルはそっとシンジを床に横たえると、じっと眼を閉じた。
そのまま、どのくらいか ── 数瞬の後。
ぼんやりとカヲルの体が光り出す。
何ごとか、聞き取れない程の大きさで何かをつぶやき ── 光が段々と大きく、明るくなっていく。ふわりと両の指先が持ち上がったかと思うと、どこか恍惚とした扇情的にもみえる表情で、カヲルが背を反らし、手が上に向かって伸ばされた。内側から光り輝くようなその様は、まるで月下美人の花の開花のようだ。
体から溢れた光が、指先に集まった。
それは丸い光の玉になり、銀と赤に、交互に光っている。一瞬、弾けたように光を増し、部屋の中を白と黒に塗りわけた。閃光が去ってカヲルが目蓋を開けると、光の玉は彼の手のひらに向かって落ちて来る。それを器用に受け止めて、カヲルは光を放つ玉を確認した。手の中でまだ光を失わないその玉は、ちょうどビー玉より一回り小さい位だ。
カヲルは寝かせたシンジを見下ろした。小さな体は相変わらず浅い呼吸をくり返しており、熱がふっくりとしたシンジの顔を赤く上気させていた。しかし、暫く玉を握ったままカヲルは動かなかった。それまでシンジに見せていた顔とは驚く程違う、何処か醒めたような視線で何ごとかを考えているようだ。
「…、……」
シンジが熱に浮かされたのか、何か云おうとした。それは結局言葉に成らなかったのだが、カヲルは何かを聞き取ったのだろうか。はっとしたように身じろぎすると、その顔にさっきまであった醒めたものは、綺麗にかき消えていた。
カヲルは別の部屋から徳利に似た入れ物を持ち出すと、白い手をそっと熱っぽい後頭部の下に差し入れ、心持ちシンジの顔を持ち上げた。
手にしていた玉を自分の唇に含む。
そのまま、ぐったりとしているシンジに唇を重ねた。舌で玉を押し込むと、徳利に手を伸ばし、中の水を口に含み、再度シンジのそれに合わせる。こくりと細い喉が玉を飲み下したのを確認して、ようやくカヲルは微笑を漏らした。
カヲルの飲ませた玉がどんな作用を及ぼしたのか、暫くすると、シンジの呼吸が穏やかになっていく。指で汗に濡れた柔らかい前髪をかき分けると、早くも熱が引き初めているのが判った。それに安堵の表情をしたかと思うと、カヲルの表情がゆっくりと別のものへと変っていく。指に触れる前髪の感触を弄びながら、シンジを見詰めていた。
『…これで僕は君を選んだってことだ』
カヲルは眠るシンジに向かって呟いた。聞こえているかどうかなど、どうやら気にもしていないらしい。
『それが君と僕にとっていい事か、それとも悪い事か ── 』
水で濡れたシンジの唇に、カヲルが指を触れて拭ってやる。その指を、カヲルはぺろりと舐めた。
『…僕には等価値だけれどね』
翌日、すっかり熱も下がったシンジが眼を覚ますと、カヲルが部屋に入って来るところだった。
『ああ、ちょうどよかった。お腹空いただろう?』
カヲルが話し掛けながら手にしていた盆をシンジの前に置いた。簡単な食事と、世間ではまだまだ高価な葡萄や梨といった果物が乗っている。カヲルを見上げて首をかしげると、カヲルが微笑んだ。
『お食べよ。昨夜は食べてないだろう? それとも、お腹空いてないのかい?』
くすくすと笑いながらカヲルに云われると、急に物凄くお腹が減っている事に気がついた。けれど、本当に手を出していいものか、シンジは迷っている。すると、カヲルの指が葡萄の房からひと粒、紫色の粒を取って瑞々しい果肉を口に含んだ。それをまるでぼんやりと見ているシンジに、カヲルが笑う。
『 ── 食べないの?』
もうひと粒、白い指が粒を取り、器用に皮を剥く。
果汁に濡れた指が、シンジの唇に葡萄の果肉を触れさせた。
『あーん…』
柔らかな声に云われるままに、雛鳥のようにシンジは口を開いた。滑り込んだ果肉の甘みが口中に広がり、喉を滑り落ちる。その葡萄の甘味が空腹をさらに刺激して、小さなお腹がきゅううっと鳴った。シンジは思わず云っていた。
「いただきます」
楽しそうに笑いつづけるカヲルを前に、シンジは盆に乗っている食事を食べ出した。
「ねぇ、またあえる、カヲルくん?」
食事を終えたシンジをカヲルが送りだそうとしたときに、いきなりシンジが泣きそうな声で、カヲルに縋り付いた。少し驚いてシンジを見下ろしたカヲルの眼と、潤んだシンジの眼がぶつかる。その瞳は驚く程必死だ。まるで親と引き離されるのを恐れる小犬みたいに。その瞳を見つめていたカヲルは根負けしたとでもいいたげに苦笑した。
『 ── 僕が好きかい?』
こくんと頷く小さな頭。
『そう、僕も好きだよ、シンジ君』
カヲルはふわりと笑う。しかし、その笑みはすぐに厳しい表情に変った。
『いいかい、僕の事は誰にも話しちゃいけないよ。でないと、2度と逢えない』
手を取りながら云うカヲルの声は怖いくらいで。
『僕はシンジ君と逢えなくなるのはイヤだな。シンジ君は、どうだい?』
赤い眼が覗き込むようにしてシンジを見詰めている。シンジは咄嗟に答えていた。
「やだ」
半分泣き声だった。
「カヲルくんとあえないなんて、やだよぉ」
『約束…シンジ君、守れる?』
赤い瞳がその色を深めてシンジを見た。
「いわない、ぜったい、おねえちゃんにもかじにもいわない…!」
今度こそ、カヲルはとろけるような笑みを浮かべて、シンジを抱き締めてくれた。
途中まで送ってくれたカヲルが、ここからは一人で帰るようにと云った時、シンジはまた酷く不安になった。離れたくない思いを込めてシンジがカヲルを見上げると、カヲルは困ったように笑った。
『きっとみんな心配してるよ。だから帰っておいで。大丈夫、シンジ君が約束を守ってくれれば、また逢えるから』
「ほんとう?」
『うん。必ず逢いにいくよ』
約束だよ、といって、カヲルはシンジの額に口づけた。ようやく納得したのか、それでも何度も振り返りながら帰っていくシンジを、カヲルはずっと見送っていた。互いの姿が見えなくなるまで。
『…かわいい子ね』
細い綺麗な声がして、カヲルは笑みを深めた。
後から白い手が伸びて、カヲルを背中から抱きしめる。それに逆らわずに、体をくつろがせて、カヲルはクスクスと笑った。その笑みは、今までシンジに見せていたそれとは微妙でいながら明らかに違う。
『だろう?…とても気にいったよ、僕は』
『あの子が、そうなの?』
細い声が ── 少女の ── 興味を含ませて艶を帯びた。
『うん。らしいね。でも、気がついたかい?…あの子はどちらかというと』
『…私達に似てるわ…』
細く白い指がカヲルの髪をかき回し、カヲルはようやく声の少女に振り返った。彼女の折れてしまいそうに細い腰に手を回し、見上げてくる少女に微笑む。
『ふふ…駄目だよ、レイ。あの子は僕のものだ。いくらレイでも、あげられないな』
『…ずるいわ…私も”同じ”なのに…』
その声音には殆ど感情を感じ取れないのに、カヲルはその少女の言葉を酷く面白いもののように、整った眉を引き上げた。眼を眇めて視線を受け止め、思い出したようにちらりと舌で唇を舐める。
『いいじゃないか…同じ事だよ。そう、僕達は”同じ”なんだから。…機嫌を直してくれるかい?』
カヲルは頭半分程低いその少女、「レイ」にゆっくりと唇を重ねた。薄く開かれた唇から舌が入り込むと、レイは自分のそれをまさぐるように絡ませる。まるで、カヲルとキスを交わしながら、同時にカヲルの舌にわずかに残る「シンジ」を確かめるかのように。
『 ── いづれ手にいれるよ…とても気にいったからね…』
唇を離し、間近に顔を寄せたまま、カヲルが囁く。レイは月のように微笑んだ。
白い肌に、赤い瞳。
二人はまるで兄妹のように良く似ている。違いがあるとすれば、カヲルの髪が砂色に近い銀なのに対して、レイの髪が青みがかるほどくっきりとした銀色だということだろう。しかし、総じて二人に漂うものは、性別を超えて似すぎるほどだ。空の月と水に映った月のように、余りにも相似形の組み合わせ。
『そう ── 僕らと同じだよ、あの子は』
酷く楽しげに、カヲルが笑う。
『…楽しみだわ』
レイがつぶやくのを腕の中に聞きながら、カヲルはシンジが帰った方向に視線を投げ、猫のように眼を細めた。
自分と別れた後の、カヲルと彼とよく似た少女の会話をシンジは知らない。
家に向かって歩いている途中で、シンジは捜索に出ていた大人達に保護された。お屋敷の跡取りが行方不明だというので、昨夜から近隣の住民総出で捜索が行われていたのだ。大人達に連れ戻されたシンジは無事を喜ばれた。姉のミサトなど、シンジを捕まえて怒り出したかと思うと、泣き出したほどだった。
ミサトを始めとする何人かに、夜の山でどうしていたのかと訪ねられたが、シンジは決してカヲルの事を云わなかった。カヲルに逢えなくなると思うだけで悲しい気持になったからだ。もともと、そう口数の多い方では無いシンジのそんな沈黙を不自然に思う者もいなかった。「事件」はそうやって誰の眼にも解決したと思われた。少なくとも、時間と共に風化して、時折話題にされる以外には、その時の事をあえてどうこう問おうというような者はいなかったのだ。
■■■
シンジは、ずっとカヲルとの約束を守って、カヲルのことは誰にもいわなかった。
初めは大好きなカヲルに逢えなくなるのが嫌だという一心で「約束」を守っているだけだった。たった1晩で、シンジはカヲルを誰よりも好きになっていたからだ。えも言われぬ懐かしさと、ゆったりとした優しさ。友達もほとんどなく、使用人を含め家族はみな年が離れている。一番年の近いミサトは母親のようなものだが、そのミサトですら、自分の事だけを見てくれているのではないと思うときが ── 肌で感じるときがある。甘えたい盛りのシンジは淋しかった。
とても淋しかったのだ。
時が経つにつれ、いつの間にかカヲル自身と、そのカヲルとの約束はシンジに取って心のよりどころとなっていった。いつもは優しいミサトも、時々怖い。加持とミサトが自分に内緒で二人で遊んでいるのを偶然見たときにも、酷くしかられた。そしてある日を境に、シンジはミサトが怖くてたまらなくなった。
あれからほぼ10年。シンジは今年で15になる。
カヲルと月を眺めながら、シンジはそっとカヲルの服を掴んだ。静かに深く呼吸すると、カヲルのほのかな香りがして、とても安心する。きっと、それも全部カヲルには知られてしまっているんだろう。どんなに自分がカヲルに逢いたいと想っているのか、どんなに自分がカヲルを好きか。もともと口べたで、そんな思いを言葉でうまく言えないけれど、カヲルにはそれは何の問題でも無いらしく、いつもシンジの気持を察してくれた。ありがとうもごめんなさいも、楽しいも淋しいも…好き ── も。カヲルはシンジの事は何でも判ってくれている。
言葉にできないもどかしいような気持ちに応えて、カヲルはシンジに、言葉以外の「つたえ方」を教えてくれた。カヲルと自分、二人だけに通じる方法。5才だったシンジにも可能な、それはとても簡単な方法だった。それはこうやって、相手に触れること。カヲルの存在を肌で感じ取るようなその方法は、言葉よりもずっと雄弁で、その感触は何よりもシンジを安堵させ、慰撫した。
今ではあの時の約束を守るというよりも、誰にもカヲルの事を知られたくないという気持ちの方がはるかに強い。それに、きっと ──
云っても誰も信じはすまい。
なぜなら、
カヲルはシンジ以外には「見えない」からだ。
そればかりか、カヲルは初めて逢って以来、年をとっていない。
5才の自分に対して「大きいおにいちゃん」だったカヲルは、今ではさほど変り無い外見になった。今ならせいぜい1才か2才程しか違わなく見えるだろう。10年の年月がシンジを幼児から少年に変えても、カヲルはあの時のままだった。相変わらず綺麗な顔、優しい笑み。8才に成る前にはとっくに理解していた。…カヲルが人間ではない、ということを。
老いもしない、自分にしか見えない少年。
シンジは急に酷く寂しさを覚えて、カヲルの服を引っ張ってその体にしがみついた。どうしたの、と云うように、カヲルの手がシンジの背を撫でる。その手の動きは、まるで初めて逢った日に感じた揺りかごのような感触でシンジをあやす。知らないうちに亡くした何かがそこにあるような気がして、シンジはその感触に身を任せた。
こんなにもこの手は優しい。
なのに、どうして?
僕は、最近、とても不安定になる。
君がここに居てくれるのに。
「 ── シンジ君?」
優しい声がして、背を撫でる感触がようやくシンジを引き戻した。カヲルはシンジの不安を見透かしたように苦笑すると、額にそっと口づけた。何度もくり返される宥めるようなそれに、少しずつ気持がほぐれて行く。前髪を掻き上げるカヲルの指の感触に神経を集中させると、手足に残っていた不安の澱が薄れて行くようで、シンジはゆっくりと安堵のため息を漏らした。
まだ大丈夫。
まだ ──
「シンちゃん、 ── まあ、窓を開け放して…!」
部屋の襖がすっと開いたと思うと、女の声が責めるような調子で響いた。心地よい空気を一瞬で切り裂いたその声に、シンジの体がびくりとすくむ。カヲルがそっと手を握ると、それは微かに震えていた。
「この間も酷い風邪を引いたばかりでしょう? 気を付けなきゃ駄目よ、シンちゃんは碇家を継ぐ大切な体なんだから」
声の主は姉のミサトだった。年が離れた姉は昔からシンジの母親代わりで、今もシンジの体を気遣う言葉を口にしながら家族特有の無遠慮さで部屋へと入ってくる。
「…ごめんなさい、姉さん ── 」
シンジはうつむいて、小さな声で謝ると、窓を閉めた。甘く穏やかな時間は完全に霧散してしまった。カヲルの視線を感じながら、シンジはいたたまれないように、顔を上げない。
「何か用ですか」
うつむいたままのシンジが、絞り出すような声で尋ねた。彼にとっては答えは聞かなくてもとっくに判っていたが、もしかしたらという思いに、結局聞いてしまう。いつもそれは想像通りの答えでしかないというのに。
「そうだわ、お風呂が沸いたので呼びに来たのよ。早く入って頂戴ね」
にっこりと笑いながら姉のミサトがいった言葉に、はっきりとシンジの体が震えた。そんな自分を痛ましげに見ているに違いないカヲルから逃げるように立ち上がり、部屋に入ったあたりで自分を待っているミサトに歩み寄った。ミサトはまだにっこりと笑っている。その表情に、シンジは思わずカヲルを振り返った。
窓際には置き去りにされた猫のように座りこんだままのカヲル。互いの視線が絡んだ。シンジは思わずある言葉を口走りそうになり、…
「シンちゃん?」
その時、ミサトがシンジの肩に手を置いた。ミサトからは見えない角度で、シンジの顔が歪む。結局シンジはついに言葉を発することができずに立ち尽くしている。そして今度はカヲルが何か云いたげに唇を開き ── しかし、シンジはそれを見ていられずに、顔を背けた。それもいつものこと。肩に置かれたミサトの手に操られるように部屋を出る。震える手を襖にかけて静かに閉めると、カヲルをそこに残したままでシンジは部屋を後にした。
古い家特有の大きな風呂は、使用人の手で磨き上げられ、檜の峻烈な芳香を浴室一杯に漂わせていた。
湯舟に浸かりながら、シンジはカヲルの事を思い返す。言えなかった言葉。それは一度しか言えない言葉。どうすればいいんだろう。云ってしまいたい、けれど、その勇気が無い。
両手で湯を救うと、ぱしゃんっと顔に浴びせた。それを何度も繰り返す。まるで何かを隠すかのように。暫くそんなことをくり返していると、カラリと浴室の戸が引かれる音がした。
戸に背を向けていたシンジには、何を云われずとも、それが誰なのか分かっていた。もう何度もくり返されているからだ。
「さあ…背中、流してあげましょうね」
云われた言葉にシンジは唇を噛んだ。嫌なのに、言えない自分。どうして、いつからこんな風になってしまったのか。
やめてよ、姉さん ──
顔に掛けていた湯が、湯舟にぽたぽたと緩慢に雫を落とす音を遠くで聞きながら、シンジは湯舟から上がる事を躊躇っていた。
「どうかしたの、シンちゃん?」
余りにものんびりと掛けられる声に、熱い湯の中でさえ、一瞬鳥肌が立つ。どうしてそんなに当たり前のように言えるんだろう?
嫌だよ、やめてよ ──
「 ── いい、もう、洗ったから」
シンジは自分の言葉が言い訳めいて聞こえるのをぼんやりと胸の中で自嘲した。
「あら、さっき入ったばかりじゃないの。ダメよ、ちゃんと洗えてないわ」
「 ── でも」
「さ、早く?」
ミサトは笑いながらシンジを諭す。
どうして?
家族としてずっと一緒に暮らして来たのに、いつの間にかミサトにはシンジの言葉も願いも伝わらなくなっていた。
嫌だよ、ミサト姉さん。嫌なんだ ──
「シンちゃん?」
やめて ──
「ここにお座りなさい」
言葉には、密やかな命令が含まれていた。シンジの肩が揺れる。
諦めたように、シンジは湯舟から上がると、ミサトから眼を背けたまま、小さな檜の腰かけに腰を降ろした。
泡を立てた手拭いでミサトがシンジの背中を洗い始めた。すでに日課になってしまっているこの行為。下から上へ、上から下へ背中を移動する手が、少年特有の滑らかな肌に白く泡を塗り立てていく。いつも濡れても構わないようにと云って、ミサトは裸でシンジの入浴している浴室に入って来る。そして。
「…!…」
いつの間にか、ミサトの手が、シンジの背中以外にも触れて来る。腕を取り指先から洗い出すと、それは段々と上へ登っていき、それが肩を越すと、胸や首筋など、段々と前へも回り出す。
「…もう、いいよ、姉さん…!」
シンジはたまらずそう云うのだが、ミサトは一向に意に介さない。
「なぁに、ダメよ。ちゃんと綺麗にしないと。」
手は脇腹を擦り上げ始めた。
気持ち悪い。
ミサトの張り付いたような笑顔が、
妙に優し気な声が、
蠢く手が、
その体から空気を伝わって触れて来る生暖かい体温が、
キモチワルイ
気持ち悪いよ、姉さん ──
シンジは唇を噛んで込み上げる嘔吐感を堪えた。
子供の頃、年の離れたミサトはシンジに取って母親のようなもので、当然のように風呂を一緒にする事が多かった。実際母親のようにシンジを可愛がり、体の弱い彼の面倒を見ていたのはミサトだった。その頃のミサトのことはシンジもよく覚えている。最初からこんなふうだったわけじゃなかった。いつからだろうか。こんなことになったのは。
シンジの体に触れて来る、舐めるようなミサトの手の動き。
ミサトのその行為に、嫌悪を感じるようになった。
ミサトの手には、とうに手拭いなど握られていなかった。泡を塗り付けた手が、直接シンジの体を這い回っていた。華奢な骨格の腰の辺り、細いもも、それらをねっとりと撫でながら、一点へと近付いていく。
第1次性徴が現れ出したころ、ミサトはむしろ母親のようにシンジのその変化を受け止めていた。15も年の離れた弟は、ミサトに取ってもはや子供のようなもの。シンジを産んですぐ病に倒れ、その3年後に母を亡くしたシンジの世話をしてきたのもミサトだった。使用人を減らしているこの田舎の家で、まだ乳児のシンジのおむつの面倒をみていたくらいだ。
少年の張りのある肌を撫で、その手を泡の滑りに合わせてどんどん大胆に進めて行く。シンジが身じろぐのが判る。
「やめてよ、姉さん…!」
シンジは吐き気を押して小さく叫んだ。
何故こんなことするの!?
そこを確認せずとも、ミサトにはシンジがどうなっているのかなど、とうに判っている。ミサトは小さく口の端を引き上げて笑った。泡にまみれた手が触れたシンジのそこは、まだ発達し切っていない形で、しかし予想通りに早くも熱を持ち始めている。
「ここも綺麗にしましょうね…」
彼女自身も自覚のない明らかに昂った声。慣れた手付きでミサトはシンジのまだ若い局部を擦り上げる。
「いやだ、いやだよぉっ…!」
シンジは足を閉じようとするが、泡で滑らかになった手の動きは、シンジの抵抗などたやすくくぐり抜ける。抵抗するシンジを囲い込むように、ミサトの体がシンジの背中に密着した。背中の肌に当たるミサトの豊満な乳房の感触、ぎゅっとシンジを押さえ込もうとするたびに、それが二人の間で潰れるように押さわり、圧倒的な量感を訴える。尖った乳首の固い感触。ミサトはそろそろ三十路になるが、美しいといわれる顔だちと、見事なプロポーションの持ち主だ。全裸の美女が積極的に求めてくる ── 普通の男ならたまらない状況だろう。快楽を享受することにためらう必要などない。
けれど、シンジにはそれが恐ろしい。
ミサトは姉であり、そして母にも等しい存在。
「女」として捉えることなど出来ない。
「ダメよ、暴れちゃ。シンちゃんは昔からそうなんだから」
ミサトはシンジの抵抗の言葉などまるで聞こえていないかのようだ。抵抗するシンジを言葉と行為でねじ伏せる事に、奇妙な高揚を感じている。シンジがどれほど嫌だといっても、聞き入れるどころか、ミサトの心には届かない。それがシンジの恐怖を煽る。ミサトに取って、まるで自分が意思をもっていないモノのような気がして。
「シンちゃんは黙って云う通りにしてればいいのよ…?」
遅効性の毒のように耳にねっとりと注ぎ込まれる言葉。自分がとてつもなく汚いもののように思える。シンジに彼自身の意思はいらないといわんばかりのミサトの行為。
嫌だ、怖い、気持ち悪い。
やめて、
やめてよ、ミサト姉さん ──
乱暴に擦り立てられたそれが、シンジの気持ちとは裏腹に硬くそそりたっていく。何よりシンジにはそれがたまらなく嫌だった。姉のミサトにこんなふうに触れられるのが気持ち悪いのに、体は喜んでいる。懸命に我慢するシンジを、ミサトはさらに追い詰める。微笑さえ浮かべて。くり返される生け贄の時間。耐えて耐えて耐えて ──
もうそれ以上耐えられない、と、思う度に。
シンジの脳裏に銀色の人影が浮ぶ。
ミサトの手の中で、シンジの果実は白い液を迸らせた。
同時に、固く閉じられたシンジの目蓋から、涙が頬に筋を描いた。
半時程で部屋に戻ってきたシンジは、いつもと同じで酷く憔悴した顔で、今にも崩れそうだった。
引き開けられた戸口に立つシンジと、窓辺で待っていたカヲルの視線が絡む。シンジはなんとか笑おうとしてみた。今日は一緒に居ると云ってくれたカヲル、きっと部屋に居てくれる、待っててくれる。それだけがシンジを支えていたから。
けれど、シンジの顔は自分の望むようには笑ってくれず、カヲルの顔を ── シンジを気づかっているカヲルの痛まし気な顔を見ていると、むしろ歪んでいくような気がした。こんなに一生懸命笑おうとしているのに、泣いてしまっている気がした。
『シンジ君…!』
カヲルは立ち上がると手を広げて、無言のまま涙を流しながら幽霊のようにぼんやりとしているシンジを抱き締めた。濡れた髪やしっとりとした肌から、石鹸の香りが漂って来る。だがその中にもかすかな特徴のある匂いがしているのを、カヲルは承知していた。もう何年も前からのことだ。
抱き締められた途端、シンジの中で何かが切れる。
「…カヲル君…カヲ……カヲル君 ── !」
そしてシンジはカヲルの体に精一杯の力でしがみつくのだ。全て承知しているカヲルに。
まるで自分にしか見えないカヲルだけが、彼にとって唯一残された砦でもあるかのように。
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すいません〜〜、初っ端なのにディープなのはカヲ×シンじゃなくミサ×シンだったりする!!!(号泣)
いっそ、止めてしまおうかとも思いました。何度も。
気持ち悪いです。自分で書いてて吐きそうでした。(TT)
気持ち悪くて書きたくないもんだから、全然進まなくて、でも、これ書かないと、話が進まないんですよぅ〜〜〜〜!!!!!!
えぐえぐ、近親◯姦的な児童虐◯入ってて、こんなキモチワルイ始まり方をしてしまいましたが、物語として辿りつきたい場所はあったりするんです…一応…(えぐえぐ)
ginto-bunko