銀兎文庫::novels1
外で寝転がっても風邪を引かない時期は、何度か星を見に行くこともあった。ゼーレに使徒として育てられたカヲルの知識は膨大で、星の名前からまつわる逸話まで、あれこれとガイドしてくれるので、シンジも段々詳しくなった。
あれは何時の事だったか。
町よりもかなり標高の高い彼等の住む家からさらに丘を上っていくと、上を向いて寝転べば360度星空が視界を埋める場所に出る。二人で夏草の上に寝転んで、天然のプラネタリウムを満喫した。
ふと思い付いて、シンジはカヲルに「そういえば、乙女座って女神様なんだよね? じゃぁ、天使の星座はないのかな」と聞いてみた。
「リリンは多くの星を繋いで星座を作った。でも、何故かは判らないけれど、天使の名前をつけた星座はないんじゃないかな」
それを聞いて、シンジは少し驚いた。神様よりも天使の方がずっと身近な存在なのに。それに星座には「コップ座」だとか「定規座」だとか、中には「かみのけ座」なんて風変わりなのまである。なのに天使の星座だけないだなんて。
「それが何故なのかは判らないけど、星座の多くは多神教の時代に作られたんじゃないかな? 一神教の方が天使にあたるものの重要性が高いけど、一神教は多神教よりかなり歴史が浅いからね」
きっとその頃までにはとっくに星には名前がついていて、もう入り込む隙がなかったのかも、とカヲルが笑う。
ああ、そうか。
唐突に、シンジはそれが何故なのか判ったような気がした。
神様には手が届かないけれど、天使は地上に降りてきてくれるからだ。
全知全能の神様は、天界に一人きり。
けれど、天使は人の側に来てくれる。
こうやって僕の側に君が降りてきてくれたように。
人の住む地上に舞い降りてくれるから、人は天使を星座にしなかったのかもしれない。
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