銀兎文庫::brave
口元をぺろぺろと舐められては、また甘噛み。甘噛みされては、またぺろぺろと舐めてくる。
キス、というよりは食べられてる感じのそれに、美鶴は最初に頬にかぶりつかれたのもそんな感じだったと気づく。
まだ小学生なだけに、さすがに美鶴も男同士でする方法はしらなかった。けれど、もうかなりの時間二人で抱き合っているのに、一向に進展がないのはどういうわけだ。そう疑問を持つくらいには、大人の世界の事は理解していた。
押し倒してきたのは亘で、何となく亘がリード(?)する形になっているのだから、いくら何でも亘だって何も知らないはずないよな…と美鶴も思うのだが。
「わたる…あのさ…」
なに、と亘が答えたのは顎の先を舐めながらだったので、微妙な振動が背筋を駆け抜けて美鶴は焦った。
時々こんな風に核心に近い感覚を与えられるせいで、どうにも体温を上げられてしまう。けれど、相変わらず亘は服の下に手を入れてくるでもなし、他の部分を探ってくるわけでもなし、一般的によくあるようなキスをしてくるでもなしで、やたら美鶴の顔や手を舐めたり甘噛みしたりしているだけだ。
それなのに、耳元で「美鶴って、思った通り、甘いね」などと囁いてかぷ、と耳朶を甘噛みしたりするので、判っているのかいないのかどっちとも確信が持てない。
正直なところ、美鶴は戸惑っていた。亘が触れている部分が熱くて、時折くる耳元などへの刺激には思わず力が抜けそうになるのに、同時に切羽詰まるようなものが含まれていて下半身がもやもやとうずく。これまで性的なことにあまり興味のなかった美鶴だが、きっとこういう感覚が高じれば“大きくなる”んだということには確信があった。
(…亘は、どうしたいんだろう…)
美鶴にはまだそれを外に出す術がない。亘も美鶴と同じでまだなのかもしれないけれど、同じ男なのだから、こんなふうに触れあえば、亘だって美鶴と同じようにうずくものがあるはずなのだ。
いつもなら、亘の考えている事は手のひらに乗せた本に書いてある如く簡単に読み取れたし、亘の浮かべる表情は彼の心をそのまま映し出していて、まるで亘自身の取扱説明書のようなものだった。
けれど、今は美鶴にも先が全く読めない。
他人に揺り起こされているもやもやする感覚に引きずられてか、普段なら明晰な美鶴の頭脳もどこか定まりのなさを伴っていて、すっきりとまとまらないままに思考が浮き沈みする。
もしかして、亘はもう大人の体になっていて、美鶴も同じかどうかを計りかねているとか?
例え未通でも、刺激されば立ち上がるし快感だって感じる。その先どうなるかは判らないけれど。
それとも、
(まさか、わざと焦らしているとか…)
亘の性格からして考えにくいが、もし仮にそうだとしたら、むしろ亘の方こそ辛くなるんじゃないんだろうか。
──そもそも亘がそういうことを求めているからこうなったのではないか?
それとも。
押し倒したはいいが、今更男同士だということに気がついた、とか。
「ね、みつる」
「…なに」
少し怖い考えになりかけたところに唐突にかけられた声に、どきんと美鶴の心臓が大きくはねる。
期待のような不安のようななんともいえない気分になりながら、美鶴は冷静に見えるようなんとか表情を繕う。
「…お願いがあるんだけど…」
亘が赤くなった顔で、もじもじとしながら、美鶴の目を覗き込んできた。子犬のような物言いのくせに、その目はやっぱりどこか子狼のように切実な飢えのようなものを滲ませていて、本能的に美鶴は──来た、と思った。胸が苦しい。再び跳ねた心臓はそれまでより1.5倍くらいの速さで鼓動を打ち出すことに決めてしまったようだ。
時間はかかったけれど亘もようやく先に進もうとしているのかもしれない。
勢いで抱きついたはいいけれど、やっぱり亘も自分でも戸惑ってたんだろうな、あふれた気持ちを整理して言葉にするまでに時間がかかって、あんな風になってたに違いない。亘は常からが天真爛漫でそういう性的な雰囲気を感じさせた事などなかった。いきなり自分の中に芽生えた衝動に戸惑ったって不思議じゃない。
とっくに陥落した心では、いつもの冷静な思考より大幅に甘めな判断になっていることに美鶴自身もまだ気がついていなかったが、美鶴とてどうすればいいのかわからない気持ちはお互い様だった。
正直、この先自分がどんな風になって自分たちがどこまで行ってしまうのか、それを思うと少し怖い。この体勢だと、亘が美鶴をどうにかしたいらしいことがありありと伺えて、肉体的な未知の領域に踏み込む事が怖かった。亘に強く求められれば、どんなこともきっと拒めない。そして求められる幸福に歯止めが利かなくなりそうな心はもっと怖かった。
それでも、こんな目で見つめられたら…亘の言う事ならば、何でも聞いてやりたくなる。
「──言ってみろよ」
きいてやるから。
美鶴は、亘の「お願い」を半ば予想しながら、さらに早くなる自分の鼓動に頬を染めた。
ところが、続けてかけられた言葉は、美鶴の予想を大きく斜めに下回っていた。
「も1回、桃食べて?」
「…は?」
もも?
「あのね、たくさん舐めちゃったから、美鶴から桃の匂いとか味とかあんまりしなくなっちゃった。だから、もう1回桃食べてよ」
今までのムードなぞお構いなしにあっけなく上半身が離れ、美鶴をよそに、亘は手を伸ばして食べかけの桃を取り上げた。
「はい」
まだ齧られてない方を美鶴の口元にもってくると、口あけて、と、にっこりと微笑まれて、美鶴は唖然とした。
(こいつ、何考えてるんだ? これってなんかのプレイかよ?)
普通、この体勢でやることじゃないだろ、それ。
小学生なのに妙にマニアックな性癖でもあるんだろうかと、思わず美鶴は軽く目眩を覚える。
「…桃が食べたいんだったら、自分で食べればいいだろ…」
ところが、亘はぶんぶんと頭を振る。
「美鶴に食べてもらうために選んだっていったでしょ!」
ねぇ、食べてよー、と強請る亘は、子犬なのか、子狼なのか。
好きって言って好きって返されて、しかもその“好き”な相手の上に覆い被さってて、それでお願いの中身が桃を食べろだとは。
「何がしたいんだよ、お前」
「桃食べてる美鶴ってなんかすごくエロ可愛いんだもん。甘いし、いい匂いするし!」
その言葉に、美鶴はさらに目眩を感じた。
最初は確かに性欲の芽生えを起こしていたようだったが、亘はいつのまにか桃と美鶴を一緒くたに捉えてしまったらしく、キスやなんやをする以前に、美鶴の口元や手についた桃の味と香りで幸せ一杯になってしまっているらしい。
(全部くれとか好きとかエロ可愛いとかいいながら、こいつ結局何も判ってなかったのかよ!)
美鶴は、真剣に腹が立った。散々心配させられたり焦らされたり恥ずかしい思いをさせられたり、挙げ句に覚悟を決めさせられたりしたのに、亘にとってはまだ、好き=丸かじり=美味しいものレベルなのだ。
期待に眼を潤ませて桃を差し出している亘に、美鶴の中で何かが切れた。
亘が差し出している口元の桃にもう一度かぶりつくと、小さく噛みとった果肉と一緒に優しい甘さの果汁が口一杯に広がり、芳香が広がる。
ちらりと視線を投げると、何がどう嬉しいのやら、亘は実にだらしなくふにゃけた顔をしている。本当に、変なシュミでもあるんじゃないだろうな?
そんな亘の手から果汁のしたたる桃を取り上げて目算で亘の桃の皿に載せ、口を半開きのまま美鶴に釘付けになっている惚けた首をぐいっと引き寄せた。
(子犬なのか子狼なのか、はっきりしろ、はっきり!)
半開きのままの唇に、桃の果実を含んだまま美鶴は自分のそれを重ねた。びくんと亘の体が痙攣するのもお構いなしに、桃の果肉を舌で亘の口に押し込む。
「んっ、む、…」
あわあわとする体を無視して首に回した腕をさらに引き寄せ、美鶴は亘の舌に自分の舌を絡ませた。くちゅくちゅとした濡れた音が耳を刺激し、桃の甘い味とは別に絡まり合う柔らかな舌は果肉よりもずっと熱くて、亘の抵抗が融ける。
互いに息が上がって唇を放した後で、思い出したように亘の喉が果肉を飲み下した。
「美味かったか?」
美鶴は心底ムカムカとしていたが、思考停止寸前ですと顔に書いてある亘にも理解できるよう、できるだけ優しい口調でいってやる。すると、ただでさえ真っ赤になってた亘の顔が、「うん」と頷いてさらにぽわんと緩んだ。
それが美鶴の気持ちを逆撫でするとも気づかずに。
「そうか、それはよかったな」
覆い被さったまま緩みきった顔をしている亘に、思わず見惚れてしまう程にっこりと美鶴は笑った。
しかし次の美鶴の言葉は、微笑みながらではあったが、絶対零度の切れ味をもって亘に襲いかかった。
「──で、お前は、桃と俺と、いったいどっちが好きなんだ?」
顔はきれいに笑っているが声が冷凍庫なみにひんやりしている美鶴に戸惑って、亘は条件反射的にあまりにも素直すぎる質問をしてしまう。
「な、なんで怒ってるの…」
笑顔が一瞬ぴくりと動いたが、それには答えず、美鶴はさらに優しい口調で問いかけた。
「俺か?」
眼に見えておろおろとする亘に、相変わらず完璧な微笑みでさらに問う。
「それとも、桃か?」
もし動物の耳があったら完全に後ろに伏せているであろう亘の姿にも美鶴は絆されなかった。というより、亘が美鶴を好きだというのが間違いないだけに、余計に質が悪い。こんなお子様に襲われてまんまと埋もれていた自分の気持ちを自覚させられ、勢いで告白までさせられたという事実。
自分でも自分を許せないが、ふらふら定まりなく子犬になったり子狼になったりと、亘の天然ぶりにはその何倍も腹が立つ。
「どうなんだ?」
「もちろん、みつる…です…」
あまりにも予想通りの答えに、だったらこの体勢をどうするんだ、と美鶴が問いたくなっても当たり前だろう。相変わらず、亘は美鶴に覆い被さったままなのだから。
「じゃぁ、お前は何をしたくてこうしてるんだ?」
経過はどうあれ、自分の気持ちを自覚した以上は美鶴だって意識してしまう。亘にはこういう体勢の意味をきちんと自覚してもらいたい。どっちつかずのままにただ振り回されるのではたまらないではないか。
しかし、恥ずかしさやもどかしさをなんとか飲み込んで口にした問いかけに、はい?、と亘が間延びした問いを返すに至って、あまり気が長くない美鶴の忍耐もそこまででとうとう品切れとなり。
美鶴はついにキレた。
「──もういい! まだ食欲と性欲がごっちゃのお子様のくせに、生意気に襲ってくんな! ばか!!」
がつん!
「いったぁぁぁっ!!!」
自分だってどうすればいいかなんてよく判らないけれど、もどかしく思うからこそ思い切ってあんな恥ずかしいキスまでしたというのに──美鶴が容赦ない拳を力の限り亘の頭上に落とした。
「お前なんか、大嫌いだ!!」
頭を襲った衝撃に踞る亘を押しのけて美鶴が部屋を飛び出してしまっても、あまりの痛みにしばらく亘は動く事ができなかった。
例え美鶴の拳の衝撃で亘の目から星が飛んでいたとしても、バルバローネを召還されるよりはましだとしかいえない…。
その後、痛む頭を抱えて踞ったままの亘をそのままに、本気で怒って帰ってしまった美鶴は、なかなか機嫌を直してくれなかった。
電話しても居留守、直接行っても門前払いで、とうとう水不足ならぬ「美鶴不足」でヨロヨロになった亘がいたという。
「みつる…もうだめ…みつるぅ…」
亘が子犬から本物の子狼になるまで、本当はあと少し。
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you wish ? -- ...retuern brave
えー、ブログ投稿時のエントリでも「ももいろー」とか意味不明に悶えてたんですが、そういうわけでももばなしです。(略し過ぎ)
この後は桃の匂いでアシカワ連想するわたぴーが、桃はオプションだったことに気がついて切羽詰まっていくといいw
とっくに両想いなのに自分の鈍さでつまづくわたぴーと、いきなり自覚させられて潔く覚悟決めたのにスカされてキレるみったんが書きたかったんですー。
思った以上に長くなっちゃって、面白いかどうかはさておき(いいのか)、ショタは書いててすんげー楽しかったw
如何せんスタート出遅れてしまってるんで、きっとワタミツ的にはありがちなお話なんだと思います。きっと映画放映直後はもっと素敵なお話がネットにごろごろしてたんだと思うんですが…リアルタイムで読みたかった…orz
まぁ、ご新規であることに甘えて、自分は自分なりにワタミツの大人への階段を上がろうと思います(笑)
そもそもなんでももかというと。
会社の後輩の実家が岡山で、桃をたんと送ってくれたということでお裾分けもらったですよ。
「桃でショタワタミツ、これは天啓です」って幻界の女神様のお告げがね(罰当たりめ)
ええ、桃がめためた好きなのは私です(^^;)
果物全般だいすきだけど、桃と葡萄は私の中で別格。だってほんとに「幸せになる」香りだと思いません?>生の桃の香り
書いてる途中も、もらった桃をビニール袋にいれたまま時々スーハーしながら「えへーしやわせー、わたぴーからするとみったんの香りってこんなんかなー(*´д`*)」とか妄想してました(嘘をついていないから真顔で)
ちなみに、小学生なのでわたぴーはまだ未通で、欲求はあってもその感覚がよく判ってませんw
この話の時点ではみったんもまだだけど、みったんの方が淡白そうなのに、大人の都合であちこちやられてた分、耳年増で知識はありそうだなーとか思う。
ワタミツはいいねぇ。夏の元気の元だよ!
みったんはツンデレです。それがいい。ちゅかそれだからいい。
でも、小学生だとみったんがエロ可愛くてわたぴーが素で可愛いのもかなり好き。
映画でもそうでしたが、小学生美鶴のエロさは無意識核弾頭だと思いまス。あの壮絶な色香は狙うと逆に出せん!
そして小学生わたぴーは、あひる口になったりきょとん顔になったりというのが等身大で微笑ましい。
小動物可愛いって感じ?柴犬かハスキーの子犬みたい。なんかもんもんとしつつ表情がくるくる変わりそうなところがツボw
でも、そういう子がもんもんぐるぐるしながら攻めなのがまた萌えー。(夏場ゆえ普段よりもよく腐っております)
あ、こんなこと言ってますが、ワタミツならどんなんでもバチ鯉!ですのよ。入れ喰いでつから。
これで落書きも載せたら、Ringに登録申請だせるぞー。がんばれ、アタシ。
でも最近はブレイブさん少なくなってて寂しいわ。
今度は鈍い亘にツンデレ美鶴がむくれだす話が書きたい。カッちゃんとか宮原君も書きたい。
あ、めぞんブレイブもー(笑)
ginto-bunko