銀兎文庫::novels1
ゼフィランサス。
何かの呪文の様に聞こえるその音の羅列は、その姿にはちょっと馴染みにくい気もしたけれど、学名って言うのはえてしてそういうものだよね。
小さな白い横長のプランターは、小さな球根を植えた日から、僕の密かなつぶやきのお相手を努めてくれる様になった。花々は話し掛けてやると良く育つらしい。この花が誕生花な日と同じ日に生まれた彼からの聞き齧りだけど。
ゼフィランサス、白い花を咲かせるその植物は、ヒガンバナ科の多年草で、30センチ程まで育つので、部屋の窓の外に吊るしたプランターから、ちょうど窓の縁取りのように部屋を覗き込む。
もともとは近所の商店街の抽選で当たった下から3番目の景品で、僕にはそもそも園芸の趣味なんてないんだけど、何の偶然か誕生花の本までついていて、何の冗談か、彼と同じ日の花だったってだけで。
それだけだっていうのに、プランターや肥料を衝動買いしてしまう僕って、全く、僕ってさ。
…僕って弱味が多すぎるんだよね、きっと。
「ねぇ、ところで、玉置浩二と同じ誕生日だって知ってた?」
は?と、床に寝そべりながら眺めていた雑誌から顔をあげた彼は、唐突な僕の言葉の前後の脈絡のなさに、なんだかちょっとぽかんとした顔をする。
(へへ、やったね)
僕は通算何度めになるかも忘れた「シャッターチャンス」をモノにして、思わずにんまりとしそうになる顔を、そ知らぬ風に保つ苦労を味わってみたり。彼のそんな表情を心の中でアルバムに張り込みながら。
実は、僕は時々、彼のこういう顔を見たくてわざとこんな話をすることがある。普段は何ごとにも聡くて隙が無くて完璧な彼が、僕の前ではこういう顔を見せてくれるのだと言う事に気がついてから、すっかり病み付きになってしまったんだけど。
なんでだろう、他の人の言う「綺麗で完璧な美少年」な彼より、僕はこういう無防備な彼の方が好きだと思う。ちょっとしたクセや、好き嫌いや、気に入りのメニュー、この部屋ではそういうものが、彼を「完璧」でいさせないからだろうか?
(つまり、グリンピースが嫌いだったり、とか。)
なんでかな、僕は生まれてこれまで、幸せって言うものの形を知らなかった様に思うのに。
こんな単純な発見で1日中嬉しくて溜らなくなる。
白い花弁は、滑らかな彼の頬のようだし、次々と開いて行く蕾達は、まるで彼のおしゃべりの様で。
僕はすっかりこの花々を彼の名前で呼ぶようになってしまっていて。
そんなことは絶対バレないようにしなくちゃ。
これ以上一方的に弱味を握られてしまうのもなんだか悔しいし。
だから僕はせっせと君の弱味を握る努力を欠かせないんだけど。
グリンピースが嫌いだったり、フランス映画は眠そうだったり。
でも、それはなんだかちっとも弱味を握れたような気がしないんだけどね。
全く、次々と開いて行く蕾達は、まるで彼のおしゃべりみたいで。
しゃべらない時は、食べてる時か、眠っている時か、僕にキスしてるか、くらい。
好きだよってその唇に言われると、腹が立つやら恥ずかしいやら、いたたまれない気持がして思わず眼を閉じてしまうのを、彼はとっくに承知していて、次には唇が僕に直接伝えに来る。
ああ、全く、このおしゃべりな唇と舌は、僕の中でも充分におしゃべりで。
腹が立つほど巧みな話術で、僕は逃げる事もできずに聞き入るだけで。
その内すっかり説得されて、夢中になって話してるうちに、気がついたら朝だったり、なんて。
「好きだよ」
ああ、そうやってまた、君は僕の最大の弱味を鷲掴みにしてくるんだから。
君がここにいてくれること。
君が僕の側に居てくれること。
僕を好きだと言ってくれること。
それら全てが、きっと奇跡のような確率で、偶然僕の前に転がって来た。
たまたま僕がそれを手に入れたけれど、本当は僕のものじゃなくたってちっとも不思議じゃない。
ゼフィランサス、潔白な愛。
何故こんな幸運が巡ってきたのか、まったく身が縮むような思いをする時も有るけど。
「そういえば、山田洋次監督とも同じ誕生日なんだよね」
僕はできるだけ突拍子も無いことを言い続け、他の人の知らない彼の顔を見てみたい。
僕を言葉の海に投げ込んで前後不覚にしようっていうのが君の目論見なら、僕は僕の目論見で、君をもっと裸にしたい。
こんな僕の思いなんて、ちっとも潔白な愛なんかじゃないかもしれないね。
でもね、僕は時々、幸せの形を手に入れているのじゃないかと思う時がある。
そんなことは、白いゼフィランサスにしか白状してやらないけど。
今年のケーキはグリンピースの野菜ケーキにしてみようか。
そんなレシピがあるかどうかは解らないけど、色々探せば見つけられるような気がする。見つけてみせる。
君の思いっきり嫌そうな顔を写真に撮って、君の撮った写真が大半を占める僕らのアルバムに、注釈付きででかでかと貼れるようにね。
「今日は5つ開いたんだね、カヲル君。」
僕ははっとして、口元を手で被った。
危ない危ない、また呼んじゃった。大丈夫かな、聞かれてないよね?
だって花々が白い花弁を一杯に開いて、彼のおしゃべりのように僕に笑いかけてるもんだから。
ああ、天が落ちても、地が裂けても、絶対に、この弱味だけは隠し通さなけりゃ。
全部暴かれてしまうまでに、後幾つも余裕が無い気がするのに、僕はまだちっとも彼の弱味を握れて無いんだから。
それでも時々、僕は。
幸せの形を知っているような気がする事がある。
君がスープの中のグリンピースに顔を顰めてみせたり、僕が嫌がらせのように借りて来たフランス映画を僕の隣で欠伸をかみ殺したような顔で見ていたりとか、お風呂が熱すぎて頬を染めあげて出て来た時や、僕に買い物の荷物を山ほど持たされている時に。
ゼフィランサスの花弁の中に、君の頬の滑らかさを感じたりする時なんかにはね。
you wish ? -- ...retuern texts
うーん、なぜこんなにゲロ甘なSSになったのでしょうか(^^;)
いあ、シンジにシンクロするとカヲるんが好きでたまらなくなるので、
カヲるんにサービスしようとシンジサイドで書いてみたのですが…
ついでに、シンジをちょっと意地っ張りにしてみたりして…(^^;)
俺自身は、シンジには「綺麗で完璧なカヲル君」よりも、
こういった他愛の無い生活感の有るカヲルにほっこりしてほしいでしゅ〜。
あうあう、すいません、超絶腐ってますね、自分でもわかってまス…………(すごすご)
ginto-bunko