シンジ君とカヲル兄さん(3)

■設定…
 ついにタカノ自身の一線を超えるか?の巻(^^;)





 熱を持って疼くような感覚が、昨日からずっとシンジを苛んでいる。
 昨夜カヲルから与えられた罰に、シンジは熱くなる頬と微熱を訴え続ける股間に息を詰めた。
 じれったいような、達し切れない熱に、シンジはおかしくなってしまいそうだ。




     ■■■




 校内模試の席次票と答案を見比べながら、カヲルはため息をついた。少し乱暴に前髪をかき上げるカヲルの左手首で、ガラスのチャームがついたブレスレットが、かきあげたその動きにあわせて揺れている。赤いすり硝子でできたそれは、砂浜に漂着した硝子をイメージして作られたもので、シンジが一目見てカヲルにプレゼントしようと決めたほど、カヲルの瞳の色に似合っていた。
 でも。
「…どういうことかな。説明してくれるかい? シンジ君」
 シンジはびくりと身をすくませて、うつむいた。いつもなら綺麗に感じる眼鏡越しの瞳が、本当に怒っているのか赤さが増して見え、とても怖い。
「ご、ごめんなさい…カヲル君…」
 カヲルはいたたまれないような表情のシンジを眺め、また一つため息をついた。
「ここの問題だけど…この公式は確か、模試の前の日に何度もやったよね、思い出せなかったのかい? それに、ここの間違い方。単純な計算間違いじゃないか。いつも云ってるのに、見直さなかったの?」
 カヲルの言葉が、沈黙を守るシンジの上に降り積もる。
「いきなりこんなに席次が落ちるなんて、何か理由があるんだろう? ちゃんと理由を話してくれれば、僕も怒ったりしないよ?」
 一方的な会話ではらちのあかない様子に、意識的に少し宥め口調で話しかける。いつものシンジなら、これで充分だった。カヲルに嫌われるのを恐れて必死に「理由」を説明するのが、いつものパターンだった。それが今日は、
「ごめ…なさ……」
 どうしたことか、シンジは「理由」を云おうとしない。カヲルはその事に気がついて、どうしたものかと考える。
「体調が悪かったの?」
 うつむいたまま、シンジが首を振る。
「悩みごとでもあった?」
 また、シンジは首を振る。
「何か、他に気になることでもあったの?」
 すでにシンジは首を振ることも出来ずに、立ち尽くしている。
「…説明できないのかい? 『僕』にも?」
 カヲルは『僕』という一言に微妙なニュアンスをこめて、シンジに話しかけた。その言葉に、シンジははっとしたように顔を上げた。まるで即効性の薬でも与えたように、かみしめられて赤くなった唇が何かを云いかけたが ―― また、それは元通りかみしめられ、辛そうな顔はうつむいてしまった。
「ごめんなさい…」
 今度こそ、カヲルははっきりとため息をついた。その気配に、シンジはさらに身をすくませながら、心のなかで自分のしたことを思い出していた。
『ダメ、いえない…カヲル君だから、余計にいえないよ、絶対…!』
 シンジは、ぎゅっと手を握りしめた。
『だって ―― !!』
 こんなに席次が落ちてしまうなんて、思ってなかったんだ ―― !




     ■■■




 英語、国語、社会、理科と、順調にこなし、最後の科目が数学だった。
 プリントされている問題は、既に何度もやった型のものばかりで、シンジにとって、今回の模試は楽勝といえるものだった。カヲルにみて貰っている英語と数学など、英語は構文を見直したばっかりだったし、特に数学は、前の日の夜に二人で公式を復習したばかりで、満点だってとれる気がした。むしろ好調に過ぎるほどの気楽さでシンジは問題を解いていき、回答爛は、時間の半分ほどで埋ってしまった。現金な話だが、以前は苦手だった数学が、カヲルが教えてくれるようになってからは、得意な科目に早変わりしていた。
『なんだか、あっけないな…』
 四苦八苦しながら問題を解いている他の子供達が聞いたら怒りのあまり答案用紙を破りだしそうなことを考えながら、シンジは残り時間を持て余しぎみに、シャープペンシルを弄ぶ。人差し指に絡めるように勢いよく回し、一回転したそれをやすやすとキャッチしなおす。カヲルがレポートなどで考え込んでいるときにしていたクセを見て、シンジが面白半分に真似たのだ。最初こそ何度も取り落としたが、今ではすっかり指に馴染んで、手持ちぶさたな時に無意識に出る彼自身のクセにもなっている。
『いつもの通りにやれば大丈夫だよ、シンジ君。いってらっしゃい』
 今朝、家を出る時、カヲルにかけられた言葉。
  …カヲル君、がんばったら、また続きを教えてくれるって、云ったよね?
 眼鏡越しの赤い眼を思い出すだけで、試験中だというのにじん、と体の芯が熱くなってくる。この間は、カヲルのあの指で、唇で、舌で ――
 無意識のうちに、シンジは赤い舌で唇を舐めていた。
  カヲル君、今度は、何を教えてくれるんだろう…
 ぞくっと、肌にあの時の感触が甦る。その快感に、シンジは場所も状況も忘れて、一瞬陶然となった。
  カヲル君…
 一つ思い出すと、その感触が次々と甦ってくる。あの、カヲルに触れられる時の熱さ、器用な指先の動き、そして達するときの、むずがゆいような独得の感覚…
 あれから、何度かカヲルにしてもらっていた。今年の誕生日には、日曜だというのに仕事で不在の両親に代わって1日中祝ってもらって、夜にはまた、何度もねだった。だって、今日は僕の誕生日なんだから、いいでしょ? ―― そうせがむと、仕方のない子だね、と苦笑しながらも、何度も何度も、愛撫してイカしてくれた。もの凄く気持ち良くって、自分から繰り返しねだったくせに、最後には、失神したように何も判らなくなってカヲルの腕の中で眠り込んでしまって…
 カヲルだけいれば。カヲルさえいてくれたら、もう、両親なんか、帰ってこなくったっていい。むしろ、二人だけでずっと、あの家で暮らしていたい。カヲルに触れて、触れられていたい…
 そんな思いの再燃に体は正直に反応して、シンジのそこには熱が育ち始めている。カヲルに触れられることに慣れ始めているそこは、だらしなくなる一方で、最近ではカヲルに少し触れられただけでも、すぐに反応してしまうくらいで。
  あ、まず…っ、
 流石に自分の状態を自覚して、シンジは霞かに顔を赤らめた。幸い、周囲の子は問題を解くのに必死で、シンジのことなど全然眼に入ってないらしい。試験監督の先生も、全然違うところを見ている。そっと、熱っぽい吐息をつく。
 腕時計を確かめると、試験の終了時間まで、あと10分 ―― 試験中の生徒の管理を簡単にするためだろう、時間内の退出は認められていない。シンジは、なんとか下腹部におこった熱をやり過ごそうと、足を閉じると腿にきゅうっと力を込めた。何とか残り時間をやり過ごして、そうすれば家に帰れる…
 しかし、一度生まれた熱をやり過ごすには、シンジの体は、すでに昂りすぎていた。腿に力を込めたことで、逆にそこにある熱い塊を意識してしまう。我慢しようとすればするほど、あの時の感覚が、布を押し上げようとしている局部を煽るように甦ってくる。シンジはぐっと奥歯を噛んだ。でも、どうしても気を逸らすことが出来ない。快感にまかせてイってしまえた方が、どんなに楽か知れないほど、そこにカヲルの愛撫を重ねてしまう。いつの間にか、あの時の熱の手順を最初から順番にたどり始めている。
『 ―― お仕置きされても構わないね?』
 初めてカヲルにイかせてもらった時の、カヲルの言葉が甦った。
 あの時、イきそうになっているシンジの立ち上がったものを締め付けて、カヲルが囁いた言葉。
 せき止められてとても苦しいのに、頂点まぎわの快感がそこに持続して、おかしくなってしまいそうなほど、
 体中の血が逆流して、そこを目指してるみたいに、
 凄く辛かった、けど、本当は…
『いいね?約束するね?』
 約束?
 喜ばせられなかったら、お仕置きを ――
 カヲル君に、される、……?

「終了5分前!」

 響いた声に、は、っとシンジは我に返った。
  僕…僕は、…?
 手元をみると、最後の2問の回答欄が消されていた。無意識に消してしまったらしい。
  バカ、早く書き直さないと、!
 急に焦って、問題を読み直し、シンジは慌てて書き込み始めた。
 それなのに。
「魔がさす」とは、こういうことをいうのかもしれない。

『オシオキサレテモカマワナイネ?』

 手が止まった。いつもよりほんの僅か籠もった力で、パキッと微かな音とともに、シャープペンシルの芯が砕ける。

 試験終了を告げるベルが、響き渡った。




     ■■■




 1週間後に担任から、模試の結果と採点された答案、そして印刷された模範回答を渡されて、シンジは流石に青ざめた。前の模試の成績より、全国レベルでかなり順位が下がっている。全国統計であれば、1点の違いが大きく順位を分けることはよくあることだ。同点の者がどれだけいるかで順位など簡単に左右されてしまう。
  どうしよう…っ!
 他の教科はむしろ前回よりも点数が良かった。けれど、数学が ―― 例の最後の2問が高配点だったせいで、以前よりも15点も下がっている。そのため、数学は校内の席次でも、大きく後退してしまっていた。
  どうしよう、怒られる…
 無意識のうちに、シンジはカヲルの事を全面的な保護者であると位置付けていた。家にほとんどいない両親よりも、ずっと良く面倒を見てくれるし、ずっと親密だ。そしてなにより、シンジにとって、カヲルは恋愛の対象でもある。…今よりもずっと幼い頃から。自分にとって誰よりも大事なカヲルに、これを見せなければならないことを思うと、シンジは眼の前が本当に暗くなるような気持ちがした。
  こんなの、嫌われちゃう、嫌われちゃうよ…!
 模試の前の晩も、カヲルは翌日提出のレポートを後回しにしてまで熱心に勉強を見てくれたのに。そう思うと、シンジは今さらながらに、自分のしたことを後悔した。だが、いくら後悔したところで、結果が変わるわけでも、時間が戻るわけでもない。

『どうしたんだ、いったい? 腹でも痛かったのか?』
 放課後、急に模試の成績が落ちたシンジを心配した担任の加持に呼ばれたときにも、半分以上、言葉は聞こえていなかった。まるで自分の体を通り抜けて何処かに消えてしまうみたいに。
『別に、怒っているんじゃないぞ、何かあったのかと、心配なだけなんだが』
 ベツニナニモナイデス、と唇が勝手に答えていた。ついでに尤もらしくスコシタイチョウガスグレナクテ、とさえ付け加えて。
『このところ、碇の成績は上がる一方だったからなぁ…まあ、人間、調子の悪いときもあるさ。今度は頑張れよ』
 曖昧に返事をするシンジを、よほどショックを受けているのだろうと思っているらしく、そんなふうに慰められたけれど ――
 もともと、「頑張って」成績が上がったのもカヲルに喜んで欲しかったからで、今回成績が悪かったのも、カヲルとのことが原因で。結果的にシンジを悩ませているのは、「成績が悪かった」ことよりも、「カヲルに怒られるかも」、引いては「カヲルに嫌われるかも」という事でしかない。
 ろくに返事も出来ない様子のシンジに、加持は心底心配した様子で『変に気にするなよ』といっていたようだったが、それももうシンジには意識の外でしかなかった。




     ■■■




 向かい合わせた椅子に座ったまま言葉もなくただうなだれるシンジに、カヲルは手元の答案に眼を落す。今度の模試ではシンジは特に数学には熱心で、その理由もおおよそ察していた。以前シンジとした「約束」。シンジはそれをかなり意識していて、試験前に勉強を教えてくれと言っていた時も、頑張ったらご褒美くれるんだよね、とねだっていたのを覚えている。「この前、カヲル君、約束したでしょ」と、子供特有の上目遣いで誘うように。
 今はまた別の意味で子供特有の態度でカヲルの前に小さくなっている。どちらかというと年齢よりもませているハズのシンジが、時々実際の年齢よりも幼い態度を取る事があって、それは大抵こういう場面だった。つまり、シンジがカヲルに言えないような「悪い事」をした時、だ。
「…ねえ、シンジ君」
 カヲルはばさっと模試の結果や答案用紙をシンジの勉強机に投げ出した。その意外に大きく響いた音に、シンジは思わず体を揺らした。
「僕と約束したこと、憶えてるかい?」
 びく、と、またシンジの肩が揺れる。怯えているようなシンジの様子に、カヲルは眼鏡の奥の赤い瞳をわずかに細めた。
「 ―― 憶えてるかい?」
 カヲルは冷ややかに繰り返した。シンジは、顔も上げずに小さく頷く。
「どんな約束だったっけ?」
「…き…ても、……」
「聞こえないよ?」
 カヲルは椅子の脊に上体を預けた。ギッと背もたれのパイプが軋む音が、二人の間でやけに大きく聞こえる。
「…おしおき…ても、……かまわな… ―― 」
 シンジの声が、泣きそうに震えながら、小さく答えた。
「そう。憶えてるんだね、」
 カヲルはシンジの腕を掴むと、まだ華奢な体を引き上げて立ち上がらせた。今までになく荒々しいカヲルの行いに怯えたシンジの眼に一瞥だけを与えると、そのままベッドへと乱暴に突き飛ばした。崩れるように倒れ込むシンジに、事務的な口調で「命令」する。
「ズボンと下着を脱いで」
 冷たい声。
 シンジはたまらなくなって叫んだ。
「ご、ごめんなさい…、カヲル君、ごめんなさい…!」
「聞こえなかったのかい?『脱いで』っていったんだよ?」
 想像以上に怒っているらしいカヲルの突き放したような言葉と冷ややかな目線に、シンジはついに泣き出した。しゃくりあげながらひたすら謝るシンジに、しかしカヲルは一片の容赦もない声で命令する。びくんと身をすくめると、シンジは濡れた顔でカヲルを見上げた。見上げた視線が赤い瞳に出合って、シンジはそろそろと手をベルトへと伸ばした。

 カチャン、と金属音がして、制服のズボンを締めているベルトを外した。ファスナーを降ろす音がやけに大きく響く。しゃくりあげながら、ベッドに座り込んだままでシンジはズボンを降ろした。騒がしい金属音と共にベッドの下へとそれが落ちる。
 怖い。
 カヲルをこんなに怖いと思ったことは初めてだった。
 でも、やさしいカヲルをこんなに怒らせたのは、他でもない自分だった。恥ずかしい妄想に耽って、カヲルの助力を台なしにしてしまった。
  僕はカヲル君を裏切った。
  だからお仕置きされるんだ。
 シンジが震える手で下着を取る。いつもならカヲルが気持ち良くしてくれる期待に、触れられる前から反応を始めているシンジのそこは、しかし、小さく委縮している。まるであの時のはしたない妄想すら見透かされそうで、シンジはいたたまれないほど恥ずかしかった。カヲルが見ていると思うと、いつもならそれだけで我慢できないほど高ぶるのに、これほど冷ややかな表情で赤い瞳に見据えられるのは初めてで、ぎくしゃくと体が言うことを聞かなくなる。
 ギッ、と椅子の軋む音を立てて、カヲルが立ち上がる。
 その引きつれたような音に、びくっ、と、シンジは反射的に目を閉じた。一度目を閉じると怖くて開けることができなくなった。

「僕はシンジ君ががんばるって言ったのを信じたのにね…」
 カヲルはぎゅっと目を閉じて微かに震えているシンジの顎を指先で僅かに持ち上げた。
 目を閉じていることで状況を掴めないシンジは、そんな他愛のない接触にもびくっと身を震わせる。まるで怯えた小動物をなぶるかのような行為に、カヲルは一人眼鏡越しの目を細めた。目隠しなどせずとも、この臆病な少年は、眼を開けることもできないほど怯えている。特に何といった事をカヲルが言ったわけでもなく、ほんの少し自分が与えた言葉に必要以上に反応して、少しでも相手の同情を引こうとでもするかのように、怯えてみせる。彼はそうやって自ら閉じこもるような所があって、それは時にこうして「逃げ」の手段にもなるのだ。それがシンジの可愛いところでもあり、狡いところでもある。けれど、そんな無意識の媚びも、シンジのことを誰よりも知っているカヲルには通用しない。
 勝手知ったるシンジの部屋だ。カヲルはベッドサイドの引き出しを開けると、小さなガラスの小壜を取り出した。
「嘘をつく子にはお仕置きしないといけないね」
 囁くようにそう言うと、隠すように寄せられた膝を軽く叩き、諭す。おずおずと動いた膝は、けれどまだ全然開いたとは言えないほどで。
「もっと、足、開いて」
 膝に手をかけて、強引に開かせる。シンジは目を閉じたまましゃくりあげていて、涙で頬とシャツの前が濡れていた。がたがたと小刻みに震える少年の姿は痛々しくも見えるが、それに構わず、手にした壜の蓋を開け、中身をたっぷりと指に取ると、微かに刺激的な独得の匂いが立ち上る。
 起用に動く白い指が、萎縮したシンジのモノに、それを塗った。
「や、あ!熱い…っ!!」
 かっ、と、いきなりそこに火がついたように、薄い粘膜が灼熱感を訴え、シンジは思わず手を伸ばそうとした。しかし、その手はあっさりと、カヲルの手に止められる。
「ダメ、お仕置きだよ、我慢して」
 冷たくかけられた言葉に次いで、再びカヲルの指がそこを探る。
「やぁぁ!あつ、熱いよぉ…!!」
 ぬるっとした感触でシンジのペニスの上を動くカヲルの指。しかし、それは今まで知っていた快美感とは全く違って、酷い灼熱感をシンジに与える。特に敏感な先端を指先が往復する度に、そこに焼けた鉄を押しつけられているかのように感じる。くちゅ、にちゃ、と、カヲルの指がシンジのそれを扱く音が響く。いつもなら音だけでイッてしまいそうな行為が、まるで違うものになっていた。止まらないどころかどんどん加速する灼熱感に苛まれて、シンジは泣き叫んだ。
「いやぁ!あ、ヒッ!ごめ、なさ…、ごめんなさ… ―― も、許してぇ…」
 カヲルのシャツにしがみつきながら、シンジは身悶えた。まだ人の手を知ってまもないその部分が燃えているように熱く、こすり立てられるとさらにその熱が倍増する。
「どうして?…シンジ君のここは、悦んでるみたいだけど…?」
 快感を上回る灼熱感、灼熱感を上回る快感。それがめまぐるしく交互に訪れて、シンジは泣きながら首を振った。シンジの形を知り尽くした指がそれを塗りこむように動く度に、いつもは甘い快楽に忘我に追い込まれるのに、擦りあげられる熱と発火したように疼く粘膜そのものと、与えられた刺激に高ぶる自分自身の漲りとが一体となって、シンジを苛む。触れられ敏感になった粘膜は、その熱をさらに酷くする一方だ。
「お仕置きにならないくらい、固くなってるね…なんていやらしいんだろうね、君のここは」
「ごめん、な、さ…!あああ!やだぁ、も、やだぁ!!」
 足をバタつかせても、泣き叫んでも、その熱はまるでシンジの体に根を下ろしたように一体化している。これまでなら、カヲルの指と唇と舌でイカされていたのに、今日は指だけ。それなのに、固くしこる血流を、まるで疼くような強さで感じている。ずく、ずく、と、脈に合わせてそこに脈動を感じるほどに。また先端に塗り混むように擦り立てられて、過敏な先端に、焼けつくような痛みとも快感ともつかないものを感じて、シンジはもう言葉にならない悲鳴を上げ続けている。
「…何を隠してるの?」
 猫が捕らえた鼠を嬲るような手つきで、シンジのはち切れそうなそこを嬲りながら、カヲルは小さく、しかしはっきりとシンジの耳元で囁く。
「うぇ…っ、う、な、何も…ひ…っ!、あ、あ、いやぁ…熱いよぉ…!」
 とうにベッドに崩れ、覆い被さるカヲルのシャツにしがみつきながら、シンジは逃げ場のない熱さに気が狂いそうになる。蠢く指の動きはシンジを煽るだけ煽りながら、さらに熱を生み出すだけで、一瞬も楽にしてくれない。
「…そう。君はまだ僕に嘘をつくのかい?」
 何も、といわれて納得できるシンジの態度ではないことなど、カヲルでなくともお見通しだろう。何かを言いかけながらそれを呑み込むような態度の上で「何も隠してない」などと、信じる大人がいるだろうか。時々、シンジは恐ろしく年齢不相応な子供の理論にはまり込む。それがこれまでの生活環境から来るものなのか、それとも本人の性質によるものなのか、明確なところはカヲルも知らない。しかし、その不相応な未熟さは諸刃の剣のようなものだ。
 まだ嘘をつくのか、と言われ、シンジは灼熱感に苛まれながらも、カヲルの言葉にびくっと身震いした。
 カヲルに嘘をつくつもりなどない、ただ、言えないだけだ。「何も無い」ということは、確かに真実ではない。けれど、あんなはしたない妄想を抱いたせいでテストをしくじった事を話せるわけがない。知られれば、きっと…いや、絶対にカヲルに嫌われてしまう。それだけ ―― それだけは、どうしても嫌だった。
 ぎゅ、と、唐突にカヲルの指がきつくそこを締め上げる。
「ひっ、い、痛い!!」
 容赦の無い力に、シンジは四肢を痙攣させた。脚の間に入り込んだ手、絡んだ指が、小さな袋の片方を、きりきりと締め上げている。身動き一つできない程の痛みに、シンジは引き攣った呼吸を短く何度かくり返した。痛みの余り、もう、言葉すら、声すらだせない有り様で。
「…嘘をつく子も、隠し事をする子も嫌いだよ、僕は」
 だが、カヲルの言葉は痛みすら凌駕するほどの最後通告だった。
 嫌われたくないから言えない、けれど、言わなくても嫌われてしまう。
 シンジは痛みと混乱と、それを被ってしまう程の絶望に、唇をわななかせた。頭はどくどくと流れる血流の音を増幅して、酷くうるさい。こめかみでうずく痛みは、さらに混乱に拍車をかけた。
 結局自分は嫌われてしまうのだろうか、カヲルに。
 この、誰よりも ―― 他の誰よりも、求めてやまないカヲルに?
 カヲルのシャツを握り締めた手に、痙攣が伝わる。
 もうダメだ。嫌われて、捨てられてしまう…
「何があったの」
 締め付けていた指を解き、再び幹に絡めて、ゆっくりと上下させながら、カヲルはシンジの耳元に囁いた。立ち上がったシンジのそれは、手の中でびくびくと涙を流している。痛みが急激に遠退いて、純粋な快感だけを注ぎ込まれ、シンジは意識を飛ばしかける。
「話して、シンジ君…?」
 言葉と共に、耳に熱い吐息がかかって、ぞくっと背中を快感が走り抜ける。指先まで痺れそうなその熱さに、シンジは詰めていた息と共に、半ば無意識に言葉を漏らしていた。
「…っは、ぁ…っ、…テ…トの… ―― 」
「…テストの…?」
 くちゅ、くちゅ、となぶりつける指の動きが、淫猥な音を立てている。その音のリズムに合わせて紡がれるシンジの声まじりの吐息は、さらに淫靡で。
「…ふ…思いだし、て…」
 シンジは無意識に、カヲルの手に腰を擦り付けるようにわずかに浮かしていた。カヲルに与えられる快感は、いつだってシンジを淫らに解いていく。本人も知らないままに。
「…何を?…何を思い出したんだい…」
 唇を触れあう寸前までシンジのそれの間近にしながら、カヲルは言葉と指でシンジを誘導する。
 上気したシンジが、14歳の子供ゆえの淫靡さで、下肢をうねらせる。押し付けられるそれに、カヲルは心の中で小さく笑った。貪欲な子供。指先一つで幾らでも痴態を見せる、それでいて、決して芯までは汚れなどしない子供。
「お、お仕置き、する、…て… ―― っ…!!」
 ぎゅっとシンジの背が反る。簡単に達するよりも堪える事が快感を倍増させる事を、この体はとうに覚えていた。割られていた細い脚がカヲルを挟み込むように閉じようとする。それをもう片方の手で押さえ付け、わざとシンジの脚をさらに開かせた。
 悲鳴のような声を上げて、シンジは自分の指に噛み付いた。そうでもしなければとうてい耐える事などできない。がくがくと痙攣する体の中で、狂気にも似た熱が暴れている。
「…お仕置き、ね…」
 カヲルは猫のように目を眇めた。
 既に、告白の途中で、それを察していた。
 涙に上気した頬を光らせながら、開かれた唇は睦言をくり返すように喘ぎ続ける。
 シンジは、貪欲な子供だ。誰よりも、貪欲で、淫らで、それゆえに、無垢な。
 カヲルは自分の手首を飾っているブレスの紐を噛んで、引っ張った。結びめが解けたそれを銜えたまま、カヲルはシンジを見下ろす。果たして、自分は、この子供を愛しているのだろうか。それとも、憎んでいるのだろうか。
 こうなることは、何処かで判っていたのだと思う。
 今更ブレーキを引いても、坂道を駆けおりる車を止める事ができないように。
 走り出してしまった今更、後戻りなどできないのだろう。
 カヲルは銜えていたそれを左手に落すと、赤いチャームをベッドサイドテーブルに出しっ放しになっていたそれに浸した。マッサージにも使われるそれは適度な潤滑剤にもなるはずだ。
「そうだね、お仕置きが必要だね、君には」
 濡れて、ぬめるように光る、カヲルの瞳と同じ色の赤いガラス。シンジがカヲルの為に選んだそれを、見せつけるように持ち上げて、カヲルはまた、猫のように目を細めた。(…微笑っている事に、カヲル自身気がついていただろうか?)
 それを、カヲルは、ゆっくりとシンジの脚の間に押し込めた。




     ■■■




 思い出すだけで、肌に、局部に、あの時の灼熱と恍惚が蘇る。
 カヲルの手で押し込まれたそれは、たっぷりと塗り込められたそれによって、灼熱の棒をそこに捩じ込まれたかのように、シンジを苛んだ。熱さに悲鳴を上げてしがみついたシンジを、カヲルは微笑みながら見下ろしていた。赤いガラスを押し込む為に入ってくるカヲルの指は、シンジを散々に翻弄した。ただでさえ、塗り込められた液体のせいで、そこが引き攣る程に熱いのに、中を掻き回す指が、ある場所を擦った途端 ――
 ずくっ、と、熱い疼きが満ちてくる。
 朝から授業の内容など、一つも頭に入ってこない。
 昨夜は、刺激されるだけされて、その後唐突に放り出された。余りの辛さに我を忘れてカヲルに縋り付いたけれど、カヲルはそれ以上何もしてくれず、堪えきれなくなった挙げ句に、カヲルの目の前で自ら自分を慰める事までしてしまった。しかし、後ろに押し込まれたガラスのチャームが、中で変な所に当たっていて、達しても直ぐに熱が集まってしまうのだ。3度目の後、ぐちゃぐちゃに汚れて、流石に泣きながら取り出そうとしたシンジに、カヲルはそれを許してくれなかった。
『お仕置きだと言っただろう? 明日、僕が家に帰るまで、そのままにしておくんだよ』
 ろくに眠る事もできない夜を持て余し、朝になって、やっとの思いで登校しても、身動き一つする度に、それを意識してしまう。それが、まるでカヲルの指ででもあるかのように…。
 とうに、塗り込められた液体の効力は失せている。しかし、それよりもずっと強力な「効力」が、シンジを縛り付けていた。

『帰って来たら、ちゃんと僕の言い付けを守っていたか確かめるよ。いいね?』

 赤いガラス。それは、カヲルの瞳。
 とっくに縛られている ―― 「カヲル」と言う無類の媚薬の効力に。





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postscript

このカヲるんってば、シンジに対してはもの凄く飴とムチだなぁ(^^;)
でも、シンジが底なしになってるし………お似合い、かも、なーんて…(どかぁっ!!!(<殴殺))
一応ここでこのシリーズはおしまいです。

ちなみに、ばらしてしまうと、カヲルが使用しているのは、本当は元ネタではメンソ●タームです(笑)
けど、それだとイマイチギャグっぽいので、ヤヲイ的演出としてはレモンオイルとユーカリオイルをブレンドしたせき止め用のハーブオイルってことにしておきましょう(^^;)
ヤヲイには「腐っててもをとめ、のドリー夢」がかかっていますしねぇ(笑)