Iris pseudacorus

 Iris pseudacorus.
 「信じる者の幸福」という意味の君の誕生花は、すらりとした立ち姿が印象的なまさに日本的な植物で、それが偶然にも君の中にあるいろいろなものと符合する。
 まるで無垢な人形のようにつややかな黒髪と黒い瞳は、なぜか人一倍疑い深くて、花言葉とは裏腹に「信じない者の憂鬱」を映すから、僕は時折…彼を無性にいじめてしまいたくなる。
 まるで花に集まる蜜蜂のように、僕は君という蜜なしでは生きていけないと、
 君が好きだと、
 ………何万回繰り返せば信じてくれるのだろうか、と思いながら。


 偶然が偶然と呼べる範疇を超えてしまったのは、僕が帰り道に彼の姿を捜しだしたからだった。
 同じ学校で、同じクラスで、初めは別になんとも思っていなかったのは間違いがなかったのに、いつのまにか――彼の姿を探している自分。
 それに気がついたのは、まさに彼の誕生花の黄菖蒲が、公園の花壇で風にそよいでいる初夏の事。
 それでも初めは、単にちょっと気になると思っていただけだったのに、次第に見回す視界に彼がいないことに落胆を覚え始めるに至っては、まさにそれを「友情」という表面的な言葉で片付けられるはずがないと悟っていた。

 ねぇ、知っているかい?
 黄菖蒲は本当はヨーロッパが原産で、菖蒲という名前がついていても、本当はアヤメ科の植物だってこと。
 ものの形が似ていても、本当のことは外側からだけじゃ解らないんだ。
 それでも僕はこの花に君を、日本を感じるし、黄菖蒲のすんなりとした葉は、君が愛し気に奏でるチェロの弓に似ているとさえ思う。
 君の奏でる音もまた、君の大人し気な外見を裏切って、時に情熱的に、時に甘やかに響く事を僕は知ってる。(意地になって謙遜する君の唇を捻ってやりたい程の崇拝者が僕。)
 そしてまた、思いも寄らなかった茶目っ気で僕を振り回そうとしてみたり、僕の苦手なグリンピースで勝ちを狙ってみたり、僕に山ほどの荷物を持たせてみたり――でも、そんな時の君の顔は、鏡を見せればきっと君自身が驚くだろう程に嬉しそうで、楽しそうで、僕までが幸福になる。
 ほらね、僕の言葉は正しいだろう?
 君自身でさえ――「外側からだけでは解らない」その一番の見本じゃないかい?


 スキダヨ、と、唇で囁く。
 触れる肌に刻み付けるように。
 君は最初は抵抗してみせるけれど、途中からはどんどん大胆になって、最後は本当に情熱的な恋人に変身してくれる。綺麗なトーンの声も、しっとりした肌も、染め上げられた全身も、何もかもが僕を誘惑する。
 僕はそんな風に君の奥底へのドアを次々と開けて行くスリルと快感にわくわくする。君の隠し持っている数えきれないドアを開けて、その向こうにしかいない僕だけの恋人に出逢うために、その扉をあける鍵を、どれほど苦心して手に入れた事か!
 なのに。
 その最中だけはすっかり僕に(僕の愛撫に?)夢中な君は、その時自分がどれほど饒舌かなんてことさえ、きれいさっぱりと忘れてしまう。きっと、テープに録音して聞かせたって信じない。それほどに疑り深い君の強がりだけが僕のライバルで、やっかいなことに、そんな君でさえ僕は本当に好きなんだけれど…。
 かなり意地っ張りな君は、僕の言葉さえそのままには受け取りやしない。


 タネあかしをしてみせようか?
 ゼフィランサスを僕の名前で呼んでることも、知ってるんだよ。
 そんなふうに、もうとっくに僕に溺れているくせに、そんな自分を信じようともしないで、いつまでも恋愛の入り口で境界線を出たり入ったりしてるなんて、随分もったいないと思わないかい?
 君となら、例え奥に踏み込んで迷ってもきっと価値があると思えるのは僕だけ?
 変だね、触れあえばとても気持よさそうなのも君自身なはずなのに、それでも信じないって君は言うの?
 甘いキスも、君が楽しんでくれないなら僕だって幾らか味気ない。
 (それでも求めてしまうのは、僕が君無しでは生きていけないからだって解ってる?)

 いいよ、他の何を信じられなくても構わない。
 でも、せめて。
 蕁麻疹が出る程苦手なグリンピースを、君の差し出すままに食べる僕の誠意を信じてよ。

 信じる者の幸福。
 君に、君の花言葉に相応しい幸福をあげたい。
 そのためになら、何度でも指で、唇で、舌で、全てで囁くよ。
 好きだよ。
 君が好きだよ。
 君だけが好きだよ。
 誰よりも、何よりも。

 だから君は、一刻も早く僕に説得されてくれなくちゃ。
 信じる者が救われるために。


「誕生日おめでとう、シンジ君」





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当時のpostscript

ぬはははは(笑)
去年のカヲりんの誕生日の「Zephyranthes candida」とペアになるようにと書いたんですが、
以前にも増して腐れゲロ甘度400%ですねー。
シンジにシンクロするとカヲるんが好きでたまらなくなるのですが、
カヲるんにシンクロすると今度はシンジが可愛くてたまんなくなるという、
ある意味腐り切ったヲノレの妄想の成れの果てとゆーか?
(疑問形にしても臭さはかわらんっつーの(^^;))
とゆーことで、じゃ!(^^)/~~(<開き直り逃亡)