冬の帰り道

帰り道、夕陽が作る影が地面に伸びていたのは、いつ頃までだったろう。
学校が終わる時間は、四季を通してそれほど変わったりしない。むしろ変わるのは太陽の出ている時間の方で、少し前まで歩く方向に長く伸びた影を追うように歩いていたはずが、今はもう等閑な街頭の明かりに時折短い影が映るだけだ。
ずいぶんと暗くなるのが早くなったなと思う。そしてそれに合わせるように、ずいぶんと寒くなったとも。

今年はいつもより気候がおかしくて、秋がほとんどなかった。
やたら暑くて雨のない夏が延々と続き、申し訳程度の多少秋っぽい日がせいぜい2週間くらい、そして何故かいきなり寒くなった。まだ11月半ばだというのに気温は12月下旬くらいで、あわててサッカー部揃いのスタジャンを引っ張りだした亘は、そういえばこの気温差で風邪を引く人が多いとテレビの天気予報で言っていたのを思い出す。
中学に入って、亘はサッカー部に入った。美鶴は亘に誘われてかなり迷ったのだが、やはりまだまだアヤが心配なので帰宅部になった。亘がクラブに出る日は帰りが別々になることも増えたのだが、たまに美鶴が委員会や必修クラブで遅くなる時は、示し合わせて帰るのが約束のようになっていた。それも、ここしばらくは亘の練習試合のせいで、今月などは数えるくらいしか実現できていないのだが。

久しぶりに二人で辿る帰り道は、嬉しいけれどなんだか少しだけ照れくさい。
そっと、亘は、隣を歩く美鶴を盗み見る。
学校指定のダッフルコートにオフホワイトのマフラーで口元が見えなくなる程ガードして、すでに真冬のような出で立ち。再会した年の冬に知ったのだが、幻界では氷の魔法だって平気でばんばん使ってたのに、美鶴はとんでもなく寒がりなのだ。肌の白い美鶴がそうやって白いマフラーに包まれているのは、なんだか小さい子供のようで可愛らしかった。
透けるような頬に寒さで少し赤みが差して、色の薄い睫毛が綺麗だ。

ねぇ美鶴──と、亘が話しかけようとしたとき、ひゅう、と冷たい風が吹き抜けて。
「っきしゅ!」
鼻がむずっとした次の瞬間には、盛大なくしゃみが出ていた。
「…風邪か?」
立ち止まってしまった亘を、半歩先から美鶴が振り返る。街灯に照らされた顔は、わずかに眉がひそめられていて、心配そうだ。些細なことでも美鶴が気遣ってくれるのは嬉しいが、心配させるのは本意ではない。それに、風邪をひいたわけではないのは判っている。
「んー、たぶん、鼻炎のせい」
振り返った美鶴の隣に追いつくと、また自然と美鶴も歩き出し、そのまま二人でゆるゆると歩を進めた。
くしゃみの直後なのでどうしても鼻声なのが恥ずかしいのだが、亘にとっては美鶴の心配を解く方が大事だから、カッコワルイところを見せてしまう恥ずかしさは心の中の棚の上にあげておくことにする。

「鼻炎って…亘、花粉アレルギーなのか?」
しかし美鶴は、それで安心はしてくれなかったようだ。風邪と花粉症と、どっちも症状は似ているが、確かに花粉症の方が質が悪いのも事実で。
「花粉っていうかね…本当はハウスダストなんだけど、今年は花粉もかな。前に耳鼻科で言われたんだけど、一度なにかで症状が出たら、他のものにも反応しやすくなるんだって」
「ふぅん…大変だな。それにしても、春だけかと思ってたら、秋にも花粉って飛ぶんだ?」
そういえば、お前ここんとこちょっと眼が赤かったよな?と美鶴が首を傾げるのに、亘はちょっとだけどきりとする。美鶴が自分のことを見ていたということも嬉しいが、美鶴のそういう無防備な仕草は、いつだって亘には眼の毒だ。だがここは天下の往来だ。こんなところでふらふら血迷ったら、美鶴の制裁が恐ろしい。
「ん、たまにね、夏が凄く暑くて雨が少なかったりすると、秋にも杉の花粉が飛ぶことがあるんだ。それに草の花粉とかもね」
いつもなら花粉に反応することはほとんどない。亘はそれほど酷いアレルギー体質ではないのだ。
「ちょっと今朝、風が強かったでしょ。晴れてるし。そういう時に飛びやすいんだよ、花粉。今年はなんか、いつもよりちょっと飛んでる量多いかも…」
何年かに一度、花粉が酷く飛ぶ当たり年というのがある。きっと今年がそうなのだ。そういう年は、症状が強く出てしまう。亘は、まだむずむずする鼻を軽くつまんだ。気休めだけど、こうすると少しすっとする気がするのだ。

「まぁ、もう結構慣れてるんだけどさ」
心配げな表情のままの美鶴に軽い調子でそういうと、寄せられた眉が少し緩む。相変わらず口元はマフラーで隠れているけれど、小さく息をついたのが、マフラー越しにほのかに白く染まった空気で判る。
「薬飲んだりしてるのか?」
美鶴の声が少し軽くなっている。あまり口数の多くない美鶴だが、亘には他の人間が判らない微妙な違いが判る。…美鶴が好きだから。好きで好きで、全部が好きで、きれいな声に含まれるどんな小さなシグナルも聞き逃したくないから、自然、美鶴の言葉の些細な抑揚や間合いに聡くなった。好きこそ物の上手慣れ──は、この場合誤用になるのだろうか?
「一応ね。酷くならないようには。飲んでないと鼻で息できなくて頭がぼーっとなるし、たまに眼とか真っ赤になるしさ。でも、あれ飲むと凄く眠くてさぁ…花粉よりそっちのが困るよ。授業中に居眠りしそうで…っていうか、寝ちゃうんだよね、駄目だって思ってるのに」
少し大げさなくらいに嘆いてみせる方が、逆に美鶴は軽いことと受け取ってくれるだろうという経験則を発動させてみたり。
「そっか。俺はまた徹夜してゲームでもやってるのかと思ってた」
くすくすと笑いながらの言葉に、亘も密かにほっとする。美鶴に心配されるのは嬉しくてこそばゆいくらいだけれど、でも、どうせなら心配されるのじゃなくて頼られたい願望がある。できれば。いや、いつかは絶対。
「ええー、してないよ。最近は部の練習結構キツイもん。寝なきゃ保たないよ」

こういう何気ないやりとりが嬉しい。体は寒いけれど、気持ちはほこほことあったかい。美鶴といると、このまま離れたくないと、いつも亘は思う。同じ家に帰って同じものを食べて、そして同じぬくもりで眠りたい。同じ夢をみて、同じ朝を迎えて──。
一日の始まりも終わりも、全部を美鶴と一緒に過ごしたい。
いつからか、それが亘の目標になっていることを、美鶴はまだ知らない。まだやっと中学に上がったばかりの亘と美鶴には、ただでさえ超えないといけないハードルが幾つもある。成績のこと、高校のこと、その先の将来のこと。家を出るのにかかるお金のこと、その先の生活のこと。夢ばかり見ていられるほど子供じゃないけれど、けれど夢をすぐに実現できるほど大人でもないのが現実で。
それに、美鶴には愛する妹や叔母がいる。その二人にもまだ秘密の関係なのだが、自分の母も含め、いつかは自分たちのことを理解してもらいたいと思うのだ。亘にとっては、男同士でつきあっているとバレたら起きるだろう世間の非難よりも、今はそちらの方が手強い問題だった。
──美鶴は、どのくらい僕が好きなのか、あまり言ってくれないけれど。
将来は一緒に暮らそうねと言いたい。でも、それはまだ少し早い。美鶴は、幻界の宝玉みたいにとても綺麗で強い人だ。けれど、一度割れた宝玉だった。こんなに頭が良くて聡いのに、時に恐ろしく不器用。気が強くて努力家で、けれど信じられない程自己評価が低かったり。この宝玉は、まだ割れたところを順番に繋いでいる途中で、元の丸い形にしっかりとくっつくまでにはもう少し時間が必要。いきなり強いショックを与えてしまうのは時期尚早なのだ。くっついたからといって元通りというわけにはいかないだろうけれど、できることなら繋ぐことも自分が手伝いたい。
でも、いつかは。
笑う美鶴の横顔を見ながら、密かに願いをこめて、亘も笑った。


馴染みの三橋神社の鳥居前を過ぎると、そこが亘と美鶴の分かれ道だった。亘のマンションはここから右に折れ、美鶴のマンションは神社を回り込んだ先になる。
美鶴は美人だから狙われやすいって自覚して!とか、近道だからって暗くなってから独りで神社を通り抜けようとしたらだめだよ!とか、独りの時はできるだけ明るい道を選んでね!とか、亘が真顔で何度も迫ったから、美鶴は渋々ではあるものの街灯のある道を通って帰るようになっていたが、亘は本音では毎日家の前まで送り届けたいくらいだった。去年、美鶴が夜道で変質者をフルボッコにしたことがあって、怒った彼が強いのは十分にわかっているのだが…。
でも、心配というオブラートに包まれた単純で明快な本音は。
好きで好きで、名残惜しくて、離れがたい。
明日もまた会えるのに、別れ際はいつも同じ想いだった。

街灯から外れたところで、美鶴の足が止まった。亘が曲がる道までもう3歩くらいの場所だった。不思議に思った亘の足も止まる。どうしたの、と問おうと思った矢先に、ややうつむき加減で美鶴がぼそりと、呟くように言葉を漏らす。
「風邪なら、誰かに移したら治るっていうけど、アレルギーじゃ無理だな」
少しぐすぐすとする亘の鼻声をまだ気にしていたらしい。
「移すって…移せないよ、アレルギーは」
存外可愛い言葉に、思わず笑いが漏れる。
美鶴はかなりマイペースなところがあるけれど、でもいつだって一番根っこの部分では、自分のことよりも自分の周りの人間のことが優先なのだ。自分だって、寒がりで風邪を引きやすいのに。
「それにさ」
またお兄ちゃんスイッチがオンになっちゃったかなぁ、と、やや苦笑気味に言葉を続ける。
「自分でもしんどいなって思ったりすることあるし、だから誰かになって欲しくはないかな」
そんな亘の言葉に、美鶴が軽く瞠目するのを見てしまうと、亘は美鶴が愛しくてたまらない気分になる。
恋人スイッチがオンになって、ほんの少しだけでも“離れたくない”と思ってくれたのだったら、今すぐ美鶴を自宅にお持ち帰りして、ぬくぬくにあっためてあげるのにな。
紡いだ言葉と紡がなかった言葉、どちらもが本音だった。

「…わたる」
美鶴が、ちょいちょいって指先で呼ぶ仕草をするので、どうかしたかなと思いながら、亘は二人の間にあった一歩分の距離をつめた。亘の身長はようやく美鶴をほんのちょっぴり追い越したけれど、目線の高さはまだほとんど変わらない。そういえば美鶴は、絶対巻き返してやるって息巻いてたなぁなどと、とりとめのない記憶が過る。
薄い色の瞳がわずかに届いている街灯の光をくるりと弾いて、まるで猫の眼のようにきらめいた。近くなった距離の分、足し算なんかではなく乗算でドキドキと鼓動に変換される。やっぱり美鶴は綺麗だなぁと思考がループしかけたところに…
冷気に冷えた頬に、ほんのりとしたぬくもり──さっき亘を呼び寄せた細い指先が頬をなでた。近くなっていく美鶴の口元のマフラーが、反対側の白い手で降ろされる。ほけっと見蕩れてるうちに、柔らかい唇が触れて来た。
「え、みつ…んむっ?」
上唇と下唇で、亘の下唇をきゅっと噛むようにして、ふいと離れる。
それは時間にしたらきっとほんの1秒か2秒のことだったが、ほぼ100%不意打ちで、亘の頭を半分以上が真っ白にしてしまうほどの一撃だった。

 み、み、み、みつるが!
 き、きすした!?したよね!?
 そとなのにっ!?
 これってげんじつ!?

だって!信じられないことに、美鶴からキスしてきたのだ!
いつもだったら、外では手さえなかなか繋がせてくれないし、ましてやキスなんて、よっぽどの条件が揃わないとさせてくれない美鶴が。
そもそも、いくら今がもうすっかり暗くなってて、いつ痴漢が出たっておかしくないほどの人通りのない道だったとはいえ──普段部屋の中でいちゃついている時でさえ美鶴からのキスは珍しいことなのに!
今の亘の心境はさしずめ、見習い勇者にはぐれメタルが自分から経験値をプレゼントしてくれたような、まさに青天の霹靂状態で。
咄嗟に身動きできないくらい──しかも、思考力がひらがなオンリーになるほどの威力を持っていた。

予想外すぎる美鶴の行動に完全に呑まれて固まっている亘の頬を、美鶴の両手が挟むようにぴしゃりと叩いた。それは音だけはそれなりだったが、本気で怒った時の美鶴の制裁に比べれば、撫でられたに等しいくらいに手加減されていたけれど。
音と感触に我に返った亘の前では、美鶴が細い眉をきゅっと寄せてしまっていた。

 なんか…お、怒ってる…???

唇がへの字になっているけれど、亘には美鶴が怒る理由が思い当たらない。硬直してしまった亘の頬を、美鶴の指先がむにっとつまんだ。
「…俺は、お前だけしんどいとかつらいとか」
その声は決して大きくはなかったけれど、不機嫌さを隠そうともしていなかった。
街灯がなくても、その肌の白さのせいか、美鶴の表情ははっきりと読み取れる。寄せられた眉も歪められた唇も、どこか拗ねたような雰囲気で──それに、なによりもその瞳が。なんだかちょっと潤んでる、ような。
「そういうの、すっごくヤだぞっ…」

 これってもしかして…気のせいでないとしたら。
 誰かに移せばって、あの言葉も。
 お兄ちゃんスイッチじゃなく、恋人スイッチが入ってたってこと?

「み、」

 ずるい。こんな声で、こんな瞳で、いきなりこんな風に挑発して。
 これって美鶴の会心の一撃? それとも僕の痛恨の一撃?
 どっちにしたって──

「みつる…っ!」
かぁっと頬に血が昇って、視界が微妙に赤くなった気がした。次の瞬間、これまで何度も美鶴に拳で躾けられてきたというのに、あっさりと自制が切れた。右肩から滑り落ちる鞄も邪魔なものでしかなく、そのまま意識から消去した。軽くなった右腕を伸ばしてコートの上から肩を掴むと、驚いたようにびくっと跳ねる。…そんな反応にさえ煽られる。あたりが暗いことをいいことに、そのまま強引に体をさらった。
「、わた…」
頭を打たないようにという配慮だけは辛うじて残っていて、壁に美鶴の後頭部が当たる前に、左手を滑り込ませた。美鶴の体を押し付けたざらっとした雨ざらしのコンクリートの表面を手の甲に、しっとりと柔らかい美鶴の髪の感触を手のひらに感じて、そのギャップにこめかみがちりっとする。
「あ、」
驚いて薄く開いたままの唇に、最初から顔を傾けて、噛まれた感触が消えない自分の唇を押し当てる。ひんやりとした感触が、すぐに湿った熱さになって、亘は隙間から差し入れた舌で美鶴の舌を絡めとった。
肩を掴んだ手が無意識に追いつめた体を探り始める。ダッフルコートに包まれているのに細い体、驚いて遮るように動く美鶴の肩からも鞄が滑り落ち、さらに体が密着する。あまりに激しく貪られて息苦しさに美鶴が鼻を鳴らすのさえ亘をさらに凶暴な気分にさせて、自分こそ鼻で呼吸ができないのに、とうてい離す気になれない。もっともっと体ごと美鶴を感じたくて、膝で強引に美鶴の膝を割り服の上から太ももで下肢を軽くすりあげるようにすると、閉じ込めた細い体がぎくっとすくむ仕草に目眩がした。
「ん、んぅ、んふ…ぅ」
苦しげな息づかいと共に、美鶴の左手が亘の肩を叩いてくる。それさえももう亘には刺激にしかならなくて、細い手首を捕まえてさらに息が続く限り、熱い舌を貪った。


「な、に…っすんだよっ! このバカ!」
美鶴がようやく嵐のようなキスから解放されたとき、亘は美鶴の肩に頭を載せてぐったりしていた。
「誰かに、見ら…たらっ、どうするんだよ! 考えなし!」
自由にはなったが息が上がっていて、罵倒の言葉も途切れがちになる。
体中を散々いいようにまさぐられたせいで髪も服もぐしゃぐしゃになった美鶴は、羞恥と怒りのあまり、肩に頭を載せたままの亘を、甘えるな!とばかりに押し返した。
亘の度の過ぎた接触のせいで膝が砕けかけていて、背中を壁に預けたまま、美鶴は力のでない手で髪と服の乱れを整えた。できることなら鉄拳制裁の2、3発は繰り出したいところだったが、おそらくパワーは半減しているだろう。少し回復させねばならなかった。このところ亘のクラブの練習試合だ何だと、休みの日もあまり二人でゆっくり会えなかったし、ずっと眼を赤くしていた亘に、実は風邪でも引きかけているのかと遠慮していたから、まるで裸で抱き合うときのように触られて正直かなり追いつめられていたのだ。

だが、さっき押し返した亘が、ふらふらと地面にしゃがみ込んだままなのに、美鶴は気づいた。
「──わ、たる? …どうしたんだよ」
さすがにこれは様子がおかしいと美鶴が問いかけるのに、亘は顔も上げずにいる。ようやく力が戻った足で、しゃがみ込んだままの亘に近寄ると、当の亘は耳や首筋まで赤くして肩で息をしていた。伏せられたその顔はきっと今の美鶴よりも真っ赤になっているだろう。ハッ、ハッ、と短く詰まるような特徴のある息づかいは、亘に抱かれて追い上げられた時の美鶴自身のようで。
「もしかして、お前さ、さ」
美鶴が最後まで言う前に、荒い息に途切れながら、自己申告がされた。
「さ、…さん、け…つ…」
それを言って力つきたのか、ついにごろりと亘が地面に転がった。その顔は予想通り、暗がりでもはっきり判る程赤く、おまけに左手の甲が擦り傷で血がにじんでいる。擦り傷は恐らく、ずっと美鶴の頭を庇っていたせいだろう。
要するに、鼻炎のせいでろくに鼻で息をできないくせに、限界まで我慢したということか。
「──ばぁか」
それまではまだきっちりと制裁発動をする気でいた美鶴だったが、なんだかもう怒るのも馬鹿馬鹿しくなってきた。

 普通、死にそうになるまで我慢してまでキスするか?
 そりゃぁ、最初にバカなことをしたのは俺だけど。

どうやら亘には言いたいことだけは一応伝わったみたいだし、と、美鶴はまだ転がったままの亘をちらりと見やる。少しは落ち着いて来てるようだが、まだまだ赤いままの顔に、笑いがこみ上げて来た。さっきみたいに、容赦なく獲物を追いつめるような激しさを持ってるくせに、どこかでなんだか子供のようで。
「…おい…いいから、もう帰るぞ。いい加減、寒い」
美鶴があえて不機嫌そうに声をかけると、きっと頭痛もしているんだろう、亘は涙眼で見上げて来た。今にも主人に捨てられそうな犬さながらだ。
「うう、ちから、はいんない…」
起こして、と差し出してくる手は、改めて見るとずいぶんと大きくなった。

 今回は、俺も、ちょっと…悪かった、かも。

珍しく、美鶴は反省らしからぬ反省をしてみたりした。
二人ともまだ大人じゃないけど、もう子供でもない。これまでに何度も抱き合って、亘の中の激しさを全く知らない自分じゃないというのに。忙しそうな様子に遠慮したはいいが寂しいと思ってしまう自分がいるなら、それはきっと亘だって同じなのだ。そのことに考えが至らなかったから、自分の些細なひとことで、亘の眼の色があんなに変わってしまうとは思ってなかった。
まぁ、再度躾し直さないといけないようでもあるし、このまま見捨てて帰ったりはしないでおいてやるかと、亘を引き起こすために、美鶴は擦り傷のついた左手を引っ張った。


you wish ? -- ...retuern brave

postscript

いやあの、あれは作者的には些細な一言じゃないはずなんだよ、みったん!(笑)
この美鶴、自己評価が低いというより、根本的に何か間違ってるよねー?
恋愛に疎すぎます。でもそんな美鶴に萌えるヲレ(お前こそ間違ってる!)
そして、神社と亘や美鶴のマンションとの位置関係は、おもいきり捏造です…後で直すかも(^^;)

あー、これで星と月の間に誓った「祝!ワタミツオンリー更新」も果たしたぞ!
オンリーとその後のオフ会では、心置きなくワタミツにまみれてワタミツに悶えてワタミツに溺れてきまスーv