フォンダン・ショコラ

「熱ッ!」
いつもの手順を手際よく繰り返してるつもりが、ついうっかりと油断したらしい。
勢い良く振ったフライパンから飛び出した炒め途中のタマネギのきれっぱしが、菜ばしを握った亘の右の手首にぺったりと張り付いた。
半透明に近くなるほど火の通ったタマネギは、熱せられた油でさらに熱い。とっさにフライパンを落とさなかったのは、長年台所で培った主婦並みの「勿体無い根性」ゆえだったかもしれない。
しかし反射的にガスレンジにフライパンを戻して火を止めるという冷静さは、亘の手首にしっかりとタマネギの形のやけどを作ってしまっていた。水ぶくれにまでは至ってないが、それ寸前といったヒリヒリする痛みがすぐさまやってきた。

洗濯物を取り込みにベランダにでていた美鶴にも亘の声は聞こえていたようで、手に乾いたバスタオルやジーンズを持ちながらリビングダイニングに戻ってくる。
流しで手首を水に晒す亘を見て、細い眉をしかめた。
「やけどしたのか?」
「ごめん、どじっちゃった」
大したことないよと笑う亘を軽くにらむと、美鶴は洗濯物をダイニングテーブルに投げ出すが速いか冷凍庫から製氷皿を取り出し、亘の手の下で洗い桶にたまっていく水に思い切り良くぶちまける。
「こっちにつけろ」
自分より幾分しっかりとした腕を掴んで、強引に氷水に浸した。
「わー、冷たいって」
「いいからしばらくつけてろ!」
外見にはそぐわず気が短い元魔道士にぴしゃりとやられ、元勇者はハイ、すいません!と主人に怒られた犬のように首をすくめた。

パントリーの戸棚からタオルと救急箱を出してきた美鶴が、自分の姿を見て手を上げようとした亘を「まだつけてろ!」と叱り飛ばす。冷たいー!指が痛いー!と呻く亘の泣き言を微風のようにスルーしてさらに5分ほど待ってから、ようやく亘の手を氷水からあげさせる。氷水に浸された肌は冷たく、指先は赤くなっていた。ぽたぽたと落ちる水滴をタオルで受け止めながら、やけどの状態を確かめるように覗き込む。
「まだ赤いな。痛いか?」
「ちょっとだけ。でもずいぶんましだから大丈夫」
実際、長く我慢させられただけあって、やけどのヒリヒリする痛みはかなり引いていた。むしろ今は冷えた指先の方が痛いくらいだ。
「やけどなんて、お前にしちゃ珍しいな」
洗い桶の氷を幾つかすくった美鶴の手が、角の取れた氷をそっと患部に添えるのに、冷たい冷たいと逃げようとする亘の手を「俺だって冷たい!」と言いながらしっかりと捕まえてさらに数分。ようやく大丈夫だと判断したらしい美鶴が、氷を流しに落とすと、亘の手首を再確認する。
「水ぶくれにはならないと思うけど…」
いびつな形に赤くなった跡をあまりにも不機嫌そうに美鶴が眺めている。でもその不機嫌さは亘のことを心配しているからであって、言葉はきつくても、そこにあるのは亘への気遣いなのだ。ちょっぴり気まずくなった亘が冗談口調で呟く。
「美鶴がまだ魔法使えたら、呪文で治せちゃったりしたのかな」
「…俺は、治癒の魔法は覚えなかった」
低くひそめられた声に、とっさにまた地雷を踏んだかと亘がぎくっとなる。美鶴の周囲にはいくつも地雷原があって、付き合いが長く色々と心得ている亘でさえいまだに時たま地雷を踏むことがあるのだ。
気難しくて(それは根の繊細さの裏返しだと亘はとっくに知ってたが)プライドが高く、受けた傷はもれなく倍返ししかねない美鶴は、特に亘には容赦がない。けれど、亘だけに特に厳しいそれが、不器用な美鶴の一種の甘え方だというのも、もうずいぶん前に学んでいた。ただ、亘に対しての美鶴の倍返しは、えてして直截な表現をとることが多いのだ。つまり、平手や拳や蹴り、といった形の。

しかし、今回は予想はいい方に外れたようだ。美鶴は平手も拳も蹴りも、それどころかおなじみの毒舌も繰り出さず、ぽつりと呟いた。
「アヤがちっさいころは、転んだりしたら、痛いのとんでけのおまじないしてって言われてたけどな」

──な、なんですと?

亘は自分の目と耳が信じられなかった。
美鶴が、目の前の美鶴の唇が、「痛いのとんでけ」と呟いた!
普段なら亘の前で絶対に言いそうにない言葉を、回想に近いとはいえこんなふうに至近距離で耳にすることなんて、全く想像したことさえなかったせいか、その声も唇の動きも、可愛らしさは想像を遥かに超えていた。
「ずるい、僕にも言って!」
「…は?」
形は素晴らしく良いが、普段であれば毒舌が8割といったところの美鶴の唇が、疑問に無防備に開かれる。
「僕も美鶴におまじないして欲しい!」
「──バカかお前は!」
亘の言葉の意味を理解した美鶴は、カッと頬を赤らめて怒鳴り返した。握ってた亘の手を投げ出すように離すとさらに怒鳴る。
「子供じゃあるまいし、薬塗っとけ!」
「いいじゃん!おねがい美鶴!」
救急箱を開けてチューブの軟膏を取り出した美鶴が、ふたを開ける。
「まだバカなこと言うなら、全部自分でやるか?」
亘のやけどは右手首だから薬を塗るのは左手になる。バンドエイドもした方がいいだろうから、一人でやるには少々面倒だ。
薬を塗ってバンドエイドを貼ってやろうとした美鶴にすれば、亘の言い分は単なる駄々っ子のそれでしかない。
「だって、美鶴がおまじないしてくれたら、すっごく早く治りそうな気がするのに…」
ぶちぶちと往生際悪く呟く亘をそのままに、指に軟膏をとった美鶴がいささか乱暴に亘の手首を取る。それが、偶然やけどの部分に触ってしまった。
「ぁ痛っ!」
いくら痛みがましになったとはいっても、赤くなった部分を直接押さえられたら痛いものは痛い。ズキンと針で刺すような刺激に思わずあがった声は正直だった。
「わっ、ごめん!」
珍しくうろたえた声で反射的に謝ってしまった美鶴に、ズキズキとぶり返した痛みに涙目ながらも亘がチャンス!と思ってしまうのも無理はなかっただろう。
「…おまじない、してくれる?」
う、と詰まる美鶴はさらに珍しかった。亘が口で美鶴に勝てたことなど、長い付き合いの中でも片手に足りないほどなのだ。こんなチャンスを逃すほど、亘も甘くはない。
ずい、と前に進む亘の体と全身からにじみ出る異様な迫力に、思わず美鶴が一歩下がる。さらに一歩前にでる亘に押されるようにもう一歩美鶴が下がったところで、細い体がダイニングテーブルと亘の体に挟まれる格好になった。
「わ、わた」
逃げ場を失った態で亘の異様な迫力に戸惑う美鶴が妙に頼りなく見える。しかも、そんな姿はなんだか妙にエロくて、普段そういう思考をしない亘でさえ淡く嗜虐心をそそられて、亘の下肢に妙な熱を呼び起こした。最初は単純に美鶴に優しくされたくて迫ってたはずが、追い詰められた小動物のような美鶴を見ていると、どんどん変な雰囲気にすべり落ちかけている。
やばい、と亘が頭の片隅で思ったときには、美鶴の肩を押してダイニングテーブルに押し倒してしまっていた。腰からテーブルに乗ってしまった美鶴の足は、宙を掻くように揺れてそのまま床から浮き上がる。
「おいっ、ちょっと、やめ…」
「…ごめん、なんか僕、変なスイッチ入っちゃった…」
結局、美鶴という底なしの色香に向かって否応なくすべり落ちる代わりに自ら駆け下りることを選んだ亘は、テーブルに仰向けに返した体の首筋に顔を埋めて、だって美鶴が素直におまじないしてくれないから、と耳元に湿った声で囁いた。
「俺のせいにすんなっ」
力の入れにくい体制で気丈にも亘の体を押し返そうとする美鶴の下肢に、亘が自分の硬くなり始めた下肢をジーンズ越しにすりつける。
「…やっ、っあ!ばか、はなせ…!」
「無理、もうスイッチ入っちゃった後だもん」
硬さを増すそこの熱で美鶴の下肢も熱くしようと、亘は細い腰を掴むとまるでいつも一つになった後と同じくらいの激しさで腰を揺らした。布越しながら、過敏な部分を襲う刺激は強烈で、亘の方はもう完全に臨戦態勢となっている。後は、美鶴を同じところまで引き込むだけだ。
「あっ、あっ!ぃやだ、や、わたるっ、んっ、んぅ」
真昼間の明るい部屋の中だというのに、…いや、普段とは違うシチュエーションのせいで、余計になのかもしれない──亘の動きにあわせてぎしぎしときしむテーブルの音がやたらと隠微で、次第に赤く染まっていく美鶴の頬や刺激にあがる美鶴の声もいつも以上にいやらしく感じる。
すり上げるように動かしていたそれを、ぐい、と押し付けるようにすると、せっぱ詰まった声をあげて、美鶴の細い体全部がびくりと跳ねた。
「…美鶴、かわいい…」
上ずったようなような亘の呟きに涙目で睨んでくるが、頬はもうピンク色に上気して耳までほんのり赤く、その唇はもう甘い息を止められない様子で、小刻みに震えている。そのあまりの色っぽさに、亘は思わず小さく喉を鳴らした。負けず嫌いな性格ゆえに精一杯気丈に振舞っているのはいいとして、美鶴自身は、自分に欲望を持ってる相手にそんな表情を見せることが火に油を注ぐだけだと、まだ判っていないのだろう。
「…手当てしてやろうなんて、思うんじゃなかった…!」
悔しそうに睨みつけるものの、またゆるく下肢を擦り付けると途端に切なそうに唇を噛む様子は、実のところ亘に理性を手放させる方にしか効果がない。
「それはごめん。でも、種まいたのは美鶴だから」
「…ぁ、た…種って、な…だよっ」
「んー、すごくいっぱいあるけど…、今芽が出ちゃったのは、僕が美鶴にメロメロな種、かな」
やりとりの間も亘がゆっくりこねるように動かしているそこは、二人共にもう十分に熱くなっていて、美鶴ももう止められないところまで来ている自覚はあった。しかし、亘の様に簡単に素直になれる性格とは縁遠い美鶴にすれば、こうも亘の思惑通りに流されるのは悔しくてたまらない。蹴り倒してやろうにも、膝を割られた上に宙に浮いた足ではどうにもならないのがさらに腹が立つ。
「…もうこれ以上我慢したら痛いでしょ、美鶴?」
耳元に湿った囁きを落としながら、互いの体の間に割り込んできた亘の手がジーンズを押し上げる美鶴のその部分を確かめるように包む。きゅっと軽く握ると途端に細い腿が揺れて、高い悲鳴が漏れてしまい、羞恥と快感に美鶴の目尻がかっと赤く染まった。
「おれ、は…ッ、」
美鶴の弱いところなどお見通しの指が与える微妙な振動と、弱点の一つである敏感な耳朶を舐める亘の舌に、美鶴の舌がもつれる。
「種なんか…っ、まいてない…!」
美鶴の手はとっくに亘の背中のシャツを握り締めているのだが、本人にはその自覚がないのか、美鶴は最後まで意地を張る。淡く嗜虐心をそそられていた亘には、そんな裏腹な言葉と態度は、むしろ美鶴というご馳走に添えられたぴったりのクリームソースのようなものだ。
「じゃぁさ」
上半身でのしかかって動きを封じながら手早く美鶴のジーンズと下着を引きおろすと、自分のジーンズも下げ、とっくに熟して快感の徴をこぼしている互いのものを一まとめに握りこむ。
強い刺激に耐え切れずのけ反らせた美鶴の白い喉に一つ目のしるしをつけながら、亘が目を細めた。
「美鶴に、僕の種、うえてあげる」

ペースも何もなく亘の手で煽るだけ煽られていた美鶴は、二人のそれを合わせて扱いて幾らもしないうちに、我慢できずに一度目の精を放った。痙攣が引くと同時に全ての力がなくなってしまったように重くなった体は、自然、亘の下で亘の意のままに開かれてしまう。下半身を完全に剥かれてしまって、足を持ち上げられたかと思うと大きく割られ、肩にかけられてしまえば、もう逃げることもできなくなっていた。
美鶴の出した白濁を絡めて、亘が後ろに指を入れてくる。くちゅ、と濡れた音をさせて差し込まれた指の爪の形や関節の形さえ生々しく感じられて、ぞくりと背筋を走った電流のような感覚に、肌があわ立つ。
「…ひ、っ」
「だめだよ、力、抜いて…」
とっさに締め付けてしまった美鶴に、耳元に舌を這わせながら亘が囁くのさえ刺激となって、白いからだが明るい電灯の下で身悶える。馴れた指は、すぐに美鶴の沸点を探し当てた。奥に進めるのにあわせてのけぞった喉が途切れがちの吐息を吐くと、亘の指の動きにつれて、抱えあげられた腿が過敏に揺れる。そのまま美鶴の感じるポイントを責めると、こらえているつもりらしい声が漏れているのにも気づかず後ろの蕾がきゅうきゅうと指を食んだ。
「あ、や、やぁ…!あん、んんっ!」
きつく閉じた目蓋を透かす蛍光灯の白い明かりよりも、敏感な場所を攻められる度に目蓋の裏がハレイションを起したように焼け付いて、美鶴は酷く惑乱した。
とろとろにとろけだした美鶴の後ろに、亘が熱くなった自分のそれを宛がい、ゆっくりと一番張った先端を含ませる頃には、美鶴の腕は亘の背中に回って、その指はシャツを握りしめている。
「──いくよ?」
次の瞬間、亘が深く腰を入れると、ひときわ高い美鶴の声が亘の耳を打った。


ぐったりとなった美鶴が気がついたのは、意識を飛ばしたダイニングテーブルの上ではなく、ベッドの上だった。体は綺麗に拭われて、自分が取り込んだ記憶のある亘のTシャツを着せられている。高校に入った頃に追い抜かれた身長のせいか、美鶴の体が泳ぐくらいに大きいのが癪に障る。
「あ、起きた?」
声のした方に美鶴がだるい体をひねると、開いたままになってた引き戸の向こうから、トレイにグラスを載せた亘が入ってくるところだった。
「のど渇いたでしょ?」
「…誰のせいだよ…」
ニマニマとだらしない笑顔全開の亘がアイスカフェモカのグラスを差し出し、美鶴はそれを受け取ると、ごくごくと豪快に一気飲みした。空になったグラスを無言で亘につき返す態度にもあるように、散々揺すられて啼かされた挙句、最後には気を失ってしまったりして、羞恥やいたたまれなさのあまり、美鶴はかなり機嫌が悪い。
「もっといる? 僕の分もあげようか」
「…こんなもんで許されると思うなよ…」
まだ幾分掠れた声で低く唸る美鶴に対し、亘はええー、と表面だけ怯んだ振りというある意味無謀な態度に出て、眦を吊り上げた美鶴に思い切り睨まれた。
「いいか!しばらくやんないからな!お前の相手してたらそのうち殺される!」
散々好き放題した挙句に反省の色のない亘にキレて、美鶴は非情な宣告をした。
「え、うそ!ちょ、それはナシ!!」
「何がナシだ!これ以上お前の好きにされてたまるもんか!」
喉も痛いし腰も痛いし、キッチンテーブルなんていう代物の上で致されてしまったせいで背中も痛い。ただでさえ亘とするとフルマラソンでもしたんじゃないかというくらいにクタクタになるというのに、足を大きく割られて思い切り折りたたまれていたせいで、足の筋全部が引きつってしまっているのだ。
「体中痛いし、いっつも最後はワケわかんなくなるしっ!」
「…や、それは美鶴が、すっごい敏感だからじゃないかなー」
ぼそっと呟いた亘の臆面のなさに思わずかっとなった美鶴の手が出て、ばしん!と勢いよく額を叩く。
「あだっ!」
「…っつ!」
しかし叩かれた方の亘より、急に動いた美鶴の方がダメージが大きかったようで、下腹の奥の痛みに美鶴は顔を顰めた。腰に手を当てて身をすくめた美鶴に慌てた亘が腕を回してベッドに横たえるまで、美鶴は機嫌の悪い猫のように痛みに唸り続けた。
「…ごめんね、やっぱちょっとやり過ぎたみたい。ごめんなさい」
急にしゅんとなった亘が、横たえた美鶴の額にかかる髪をそっと撫で付けながら覗き込んでくる。美鶴がちらりと視線を投げると、その額には真っ赤な手の跡がくっきりと浮かび上がっていて、なんとも情けない。
「反省しろ」
「します!反省します!」
「変な場所でサカるな」
「努力します!」
「お前の体力に合わせてたら身が持たない。もっと加減しろ」
「や、えと、それは」
「──なんだよ」
それまで阿吽の呼吸で美鶴の要求に返事を返していた亘が急に口篭ったので、何か不服があるのか!──と美鶴の視線が迫力を増す。
「あの、ね、それ、僕だけの努力じゃ、ちょっと無理…」
言いにくそうにもごもごと口篭る亘の頬を、美鶴の指が思い切り捻る。
「お前だけの努力じゃ無理って、何だよ、それ」
「いだだ、やめれ、ひゃべれないかあー!」
「言うか?」
「ひう、ひうはらやめれー」
よし、と頬から美鶴が指を離し、ひりひりと赤くなった頬をさすりながら亘が美鶴を上目遣いで見やる。
「…あの…怒んないでね?」
「いいから吐け」
「僕、美鶴一筋だから、他の人がどうだとかは知らないけど…」
変な誤解をされては適わないのではっきりと『美鶴しかいません』と断った上で、亘はとんでもない発言をした。
「美鶴ね、全身すんごい敏感なの」
「なっ…!」
「もうね、過敏症じゃないかなって思うくらい。だからちょっと触っても反応凄いし、いっつもすんごい敏感だから、それで体力尽きちゃうの。途中から美鶴も僕にしがみついてきたりして、声もそそるし、そういう美鶴すんごく可愛くてエロいから、僕もつい我を忘れて夢中になっちゃっ…あだだぁっ!!」
「嘘をつくなー!」
立て板に水の勢いでとんでもないことを言い出した亘に、まだ横になったままとはいえ美鶴の渾身のアッパーが炸裂した。至近距離からお見舞いされたそれに、亘の視界にはこれでもかというほどの星が飛び散った。
「あだだ、舌かんだらどうすんのさー!」
顎を押さえて涙目になって訴える亘に、「いっそ噛んで死んでしまえ!」と美鶴が怒鳴る。
「だから最初に怒んないでねって言ったでしょ!」
「嘘つくからだろ!」
「嘘じゃないもん!!」
もう一発と振り上げられた美鶴の手首を掴むと、亘は「ほら、大人しくしてないとまた痛くなっちゃうから!」と薄茶の髪の両脇に押し付ける。そういう亘の方こそ、額も両頬も顎も真っ赤に脹れているのだが、羞恥心で頬を真っ赤にして眦を吊り上げる美鶴に「お前のせいだろ!」と言われてしまうと、確かにそれはその通りなので、ここは素直に謝ることにする。
「ごめん、でも、美鶴が好きだから、その、あんまり好き過ぎてさ…しかも美鶴ってばとんでもなく色っぽいし、相乗効果で理性飛んじゃうんだよ…」
何せ、亘にとって美鶴は普段でもこれ以上ないというくらい魅力的だというのに、抱き合う時にはさらにその魅力が2倍増し3倍増ししているのだから。
「だから、その、できるだけ頑張る…ってことで…」
そういいながら、内心ではきっと無理だろうなと思う亘なのだが。
「…痛いから、しばらくはしないぞ」
どうも、思った以上に美鶴に負担をかけたらしいので、こればっかりは真面目な顔で頷くしかなさそうだった。
「ごめんね。反省します」
「よし。」
亘が素直に謝ったことで美鶴の怒りも少しはほぐれたようで、さっきまでファイティングムードだったのが、微妙に照れくさいような、なんともいえない空気になった。
覗き込んだ姿勢の亘の顔は、相変わらず額も頬も顎も赤くて、それらは全部、自分が叩いたり抓ったり殴ったりしたせいだと思うと、美鶴の自分の短気さが少し申し訳ない気分になる。押さえ込んでた手を離して髪を梳く亘の指が優しくて、全く、いつもこうならいちいち腹を立てずに済むのに、と微妙に責任転嫁を含んだ気持ちで美鶴は亘を見つめた。
「ん?」
眼が合って、亘がどうかした?という表情で微笑もうとし、すぐにイテテ…、と顔を顰めた。無理もない、額や頬も赤いが、顎はどんどん脹れて赤くなっている。ちゃんと氷で冷やさなければ明日は口を利くのも辛いだろう──罪悪感がちくちくと美鶴を刺した。
「…い」
もう魔法は使えないし、そもそも治癒の魔法は覚えなかった。こんなもんで治るはずがないと思いながら亘の顔を両手で挟むと、
(いたいのいたいのとんでけ)
圧倒的な羞恥心と、散々好き放題された後で素直に亘の願いを聞くのもやっぱり癪で、声を出さずに唇だけを動かして、美鶴はおまじないを唱えた。すると、亘の顔が見る見る赤くなっていく。
「い、いまの…!」
(ちっ、気がつきやがって…)
「みつるー!!」
「こ、こら!努力はどうした!」
感動にちかい表情で力いっぱい抱きついてくる亘に、結局美鶴はもう一発殴るハメになった。


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postscript

フォンダン・ショコラは、そのまんま、
暖かいケーキの中に甘くて暖かいチョコソースが入ってるイメージですw
や、なんかエロいケーキだなとw

でもっていつもは亘の1人称が色々と書きやすいんだけど、いつもいつもじゃなぁと。
美鶴視点の話はクリスマスで書いたし、てろてろ書いてるにゃんみつも美鶴視点。
だからたまには3人称がいいなーと思って書いてみまちた。
でも気がつくとすぐに亘に乗っ取られかけててw
ちょ、おまw美鶴絡むとどんだけ勇者ですか亘!みたいな?
や、えちアリのネタは攻め視点の方があれこれ書きやすいせいかなw

なんか亘の台詞がオヤジギャグな風味でさらにごめんなさいw
一応、「鶴の恩返しならぬ美鶴の倍返し」というオヤジギャグもあったんですが、
文中で書くとあまりなので自重してみまちた(でもここでバラしてるし)

やっぱワタミツ好きだー!
今年は地上波で放送しないのかなぁ。いつでもいいからしてほしいなぁ。